早河シリーズ第四幕【紫陽花】
 乃愛の手はショーツにかかり、軽やかな音を立ててピンク色のショーツが床に落ちた。

蓮の視線が自然とベビードールの下に透けて見える乃愛の素肌に向く。レースの裾の向こう側に陰部が見え隠れしている。乃愛はそこを隠そうともしない。

「ベッドに行こ……?」

 甘く妖艶な囁きに導かれて蓮の足はベッドに向いた。キングサイズのベッドに仰向けになる蓮の上に乃愛が跨がる。

乃愛がベビードールの肩紐を下げ、ショーツとお揃いのブラジャーのホックをはずすと、形のいいバストが零れた。

「触ってください」

 乃愛に誘導された蓮の手が彼女の胸を覆う。蓮の手のひらに収まった乃愛の柔らかな胸が形を変え、中央の紅色の突起が立ち上がる。乃愛は嬉しそうに蓮の上で細い腰を前後にくねらせて身動ぎした。

「蓮さんに触ってもらえて、乃愛、とっても嬉しい」

 蓮の上に覆い被さる乃愛がまた彼にキスをした。もう乃愛は何も身につけていない。
手を伸ばせばすぐそこに、女の裸体があった。

 蓮は本能と理性の狭間で揺れていた。ここで乃 愛と関係を持つのは簡単だ。遊びの女と割りきればそれでいい。

もしここで乃愛を拒めばどうなる? きっと乃愛の怒りは玲夏に向く。
あの手紙の差出人が乃愛ではなかったとしても、新たに玲夏を憎む人間を自分が作ってしまうことになるかもしれない。

 玲夏への想いは報われない。そんなことわかっている。報われなくてもいい。玲夏の隣で彼女を守ることができるならそれでよかった。

 二つの唇が唾液の糸を引いて離れた。蓮は乃愛を押し倒し、乃愛の胸元に顔を埋める。胸の突起に吸い付くと、乃愛が甘い声を漏らした。

 この身体は玲夏ではない。目の前にいる女は玲夏じゃない。
遊びの関係で付き合う女はどこか玲夏に雰囲気が似ていた。玲夏ではないとわかっていても、遊びの女に玲夏の面影を重ねて抱いていた。

いつものようにすればいい。いつものように。

 しかしまだどこかで必死に乃愛を拒み続けるもうひとりの自分がいる。そのもうひとりの一ノ瀬蓮が何かを自分に警告しているが、その警告は靄《もや》がかかった遠くで響いていて何を言っているのか聞き取れない。
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