早河シリーズ第四幕【紫陽花】
乃愛の身体に触れていた手を止めたのは、もうひとりの自分の声。相変わらず靄の向こうの自分が何を言っているのかは聞こえない。
でも、もうひとりの一ノ瀬蓮が言いたいことはわかっていた。
裸でベッドに寝そべる乃愛を見下ろして蓮は自身を嘲笑する。
乃愛の身体は綺麗だ。滑らかな白い肌には傷ひとつない。
均整のとれた身体に柔らかな抱き心地、女の甘い香り。いつでも触ってくれとばかりに大胆に開かれた両脚の先を辿れば、アンダーヘアの少ない紅色の陰部が蓮を誘っている。
反応したくなくても蓮の下半身は反応していた。
このまま先へ進むのは簡単だ。それでも、抱きたいとは思わなかった。
『……服着て部屋に戻れ』
「……え?」
『子供は寝る時間だ。さっさと風呂入って寝ろ』
彼は乃愛の上から退き、彼女が脱ぎ散らかした服と下着を集めてベッドに放った。身体を起こした乃愛は集められた服を掴んで呆然としている。
『こんなことしても自分を傷付けるだけだ』
「どうして乃愛じゃダメなの?」
『じゃあどうして乃愛は俺がいいんだ?』
「それは……」
乃愛は答えられなかった。彼女は裸のまま、服をぎゅっと掴んでうなだれた。
『人の気持ちは理屈じゃない。どうしてだ、なんでだ、そんなもので理由付けできるものじゃない。俺が乃愛を愛せないのも理屈じゃない』
蓮はソファーに座り、乃愛の姿から目をそらした。下半身の興奮もしばらくすれば治まる。とにかく乃愛をここから出したかった。
「ここまでしておいて……酷いよ……」
『誘ったのはそっちだろ。愛がなくてもいいなら抱いてやるが、乃愛は俺に愛されたがってる。そんな気持ちで俺に抱かれても虚しいだけだ』
泣きながら彼女は下着を身に付け、服を着た。ワンピースの後ろのファスナーを上げるのに手間取り、それだけは蓮が着せるのを手伝った。
本当はファスナーを上げられないフリをしているのかもしれないと思いながら。
赤い目をした乃愛が部屋を出ていった。女の身体の感触がまだ手のひらに残っている。
あのまま抱いた方が傷付けずに済んだ? だけど靄のかかる景色の中でもうひとりの自分が叫んでいる。
『玲夏……』
蓮はその叫び声をどうしても無視できなかった。
でも、もうひとりの一ノ瀬蓮が言いたいことはわかっていた。
裸でベッドに寝そべる乃愛を見下ろして蓮は自身を嘲笑する。
乃愛の身体は綺麗だ。滑らかな白い肌には傷ひとつない。
均整のとれた身体に柔らかな抱き心地、女の甘い香り。いつでも触ってくれとばかりに大胆に開かれた両脚の先を辿れば、アンダーヘアの少ない紅色の陰部が蓮を誘っている。
反応したくなくても蓮の下半身は反応していた。
このまま先へ進むのは簡単だ。それでも、抱きたいとは思わなかった。
『……服着て部屋に戻れ』
「……え?」
『子供は寝る時間だ。さっさと風呂入って寝ろ』
彼は乃愛の上から退き、彼女が脱ぎ散らかした服と下着を集めてベッドに放った。身体を起こした乃愛は集められた服を掴んで呆然としている。
『こんなことしても自分を傷付けるだけだ』
「どうして乃愛じゃダメなの?」
『じゃあどうして乃愛は俺がいいんだ?』
「それは……」
乃愛は答えられなかった。彼女は裸のまま、服をぎゅっと掴んでうなだれた。
『人の気持ちは理屈じゃない。どうしてだ、なんでだ、そんなもので理由付けできるものじゃない。俺が乃愛を愛せないのも理屈じゃない』
蓮はソファーに座り、乃愛の姿から目をそらした。下半身の興奮もしばらくすれば治まる。とにかく乃愛をここから出したかった。
「ここまでしておいて……酷いよ……」
『誘ったのはそっちだろ。愛がなくてもいいなら抱いてやるが、乃愛は俺に愛されたがってる。そんな気持ちで俺に抱かれても虚しいだけだ』
泣きながら彼女は下着を身に付け、服を着た。ワンピースの後ろのファスナーを上げるのに手間取り、それだけは蓮が着せるのを手伝った。
本当はファスナーを上げられないフリをしているのかもしれないと思いながら。
赤い目をした乃愛が部屋を出ていった。女の身体の感触がまだ手のひらに残っている。
あのまま抱いた方が傷付けずに済んだ? だけど靄のかかる景色の中でもうひとりの自分が叫んでいる。
『玲夏……』
蓮はその叫び声をどうしても無視できなかった。