早河シリーズ第四幕【紫陽花】
目の前にいるのは別れた女。綺麗で強がりで優しい女。
彼女のことは好きなままだ。嫌いになることはない。愛してもいる。それはきっとこの先も変わらない。
でも……答えは出ていた。
『ごめん。玲夏とはやり直せない。今の俺は探偵としてお前を守ることはできても、男として守ることはできない』
玲夏の漆黒の瞳が悲しみに揺れた。これ以上、想いが溢れないように彼女は目を閉じて深呼吸を繰り返す。
「……冗談よ。本気にしないで。少し弱気になってただけ」
ほら、また強がりの演技。彼には見抜かれているのにね。
『……やっぱりお前、俺の前では芝居下手くそだな。どうしてだ?』
「女優に向かって芝居下手くそだなんて、失礼な男ね」
今はその下手くそな芝居に騙されて欲しい。嫌いになれたら楽なのに、嫌いにはなれないから。ごめんね、まだ好きでいさせて。
『お前は自分で思ってるほど強くない。弱音ならいつでも聞いてやるから無理するなよ』
「ありがとう。……ねぇ、誰かいるの? 探偵としてではなく、男として守りたい女の子」
その答えを聞かなくても彼女は知っている。きっと彼女の答えは正解だ。
玲夏の問いかけに早河は考えるように天井を仰ぎ見た。
今あなたは誰のことを考えているの?
誰の顔を思い出しているの?
『守りたいって言うか……ほっとけない女はいる』
「もしかして、なぎさちゃん?」
『まぁ……そうだな』
彼女の答えは正解だった。今の彼が大切にしたいのは“彼女”なんだ。
玲夏は少しだけ悔しくなって、わざと意地悪な質問を返す。
「ほっとけないって、それはなぎさちゃんが香道さんの妹さんだから?」
『ああ。なぎさに何かあったら香道さんに申し訳ないからな』
ほっとけない、先輩の妹だから、都合のいい言葉だ。彼は他の勘は鋭いくせに自分のことにはとことん鈍い。
なんだか可笑しくて笑いが込み上げてきた。肩を震わせて笑う玲夏を早河が怪訝な顔で見ている。
「振ったくせにキスは避けなかったね」
『あれは不可抗力。避けれない』
「避ける気もなかったくせに。この天然女たらし」
『俺がいつ、女たらした?』
「そういう無自覚なところよ。バーカ」
今でも愛してるよ。だからあなたから卒業すると、たった今決めたよ。
〈あなたの隣〉はもう私じゃないから。
彼女のことは好きなままだ。嫌いになることはない。愛してもいる。それはきっとこの先も変わらない。
でも……答えは出ていた。
『ごめん。玲夏とはやり直せない。今の俺は探偵としてお前を守ることはできても、男として守ることはできない』
玲夏の漆黒の瞳が悲しみに揺れた。これ以上、想いが溢れないように彼女は目を閉じて深呼吸を繰り返す。
「……冗談よ。本気にしないで。少し弱気になってただけ」
ほら、また強がりの演技。彼には見抜かれているのにね。
『……やっぱりお前、俺の前では芝居下手くそだな。どうしてだ?』
「女優に向かって芝居下手くそだなんて、失礼な男ね」
今はその下手くそな芝居に騙されて欲しい。嫌いになれたら楽なのに、嫌いにはなれないから。ごめんね、まだ好きでいさせて。
『お前は自分で思ってるほど強くない。弱音ならいつでも聞いてやるから無理するなよ』
「ありがとう。……ねぇ、誰かいるの? 探偵としてではなく、男として守りたい女の子」
その答えを聞かなくても彼女は知っている。きっと彼女の答えは正解だ。
玲夏の問いかけに早河は考えるように天井を仰ぎ見た。
今あなたは誰のことを考えているの?
誰の顔を思い出しているの?
『守りたいって言うか……ほっとけない女はいる』
「もしかして、なぎさちゃん?」
『まぁ……そうだな』
彼女の答えは正解だった。今の彼が大切にしたいのは“彼女”なんだ。
玲夏は少しだけ悔しくなって、わざと意地悪な質問を返す。
「ほっとけないって、それはなぎさちゃんが香道さんの妹さんだから?」
『ああ。なぎさに何かあったら香道さんに申し訳ないからな』
ほっとけない、先輩の妹だから、都合のいい言葉だ。彼は他の勘は鋭いくせに自分のことにはとことん鈍い。
なんだか可笑しくて笑いが込み上げてきた。肩を震わせて笑う玲夏を早河が怪訝な顔で見ている。
「振ったくせにキスは避けなかったね」
『あれは不可抗力。避けれない』
「避ける気もなかったくせに。この天然女たらし」
『俺がいつ、女たらした?』
「そういう無自覚なところよ。バーカ」
今でも愛してるよ。だからあなたから卒業すると、たった今決めたよ。
〈あなたの隣〉はもう私じゃないから。