早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
 ねぇ、先生。
 私ね、もういいかなって思ったの。
 家族も友達もこの世界もニセモノで全部薄っぺらい
 私がいなくなっても誰も悲しまない
 ずっとそう思って生きてきた。

 だけど先生だけは私の本物でした。
 もし死ぬとしても最後に先生との思い出がほしかったの。
 私のワガママな思い出作りに付き合ってくれてありがとう。

 思い出作りは1ヶ月じゃ短いし、半年じゃ別れが辛くなる。だから3ヶ月だったの。
 でも3ヶ月になる今でもこんなにサヨナラするのが辛くなるなら、半年だともっと辛くなっていたかな。

 先生から結婚しようって言われた時、とっても嬉しかった。誰からも必要とされていない私を先生が初めて必要としてくれた。
 それだけで生きていてよかったって思えたよ。

 でもごめんね。
 あと1年半は私には長すぎるよ。
 そこまで私、がんばれない。
 先生と一緒ならがんばれると思っても、薄っぺらい現実に押し潰されてもうがんばる力もないんだ。
 ごめんね。先生。

 3ヶ月、先生とたくさん思い出作れたね。
 映画みたり、ご飯食べたり、遊園地も動物園も水族館にも行けた。
 浴衣を着て好きな人と夏祭りに行く夢も先生が叶えてくれた。

 この3ヶ月は私にとって、生きてきた中で一番楽しくて幸せな3ヶ月でした。

 先生と出会えて、先生に恋して、愛されて、幸せでした。
 私がいなくなっても金魚達がいるよ。
 アンナがいるよ。

 ねぇ先生。
 こんな薄っぺらい上部だけの世界なんて、本当に壊れちゃえばいいのにね。
 今までありがとう。
 先生は私の初恋で、すべてのことが初めての人で、私が世界で一番大好きな人です。

 先生のお嫁さんになりたかったけど、私じゃない誰かがなるのかな。
 先生もいつか私じゃない人と結婚するよね。
 それは悔しいし悲しいけど先生の幸せを祈ってるね。


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