早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
 これまでの人生で一番悲しくて苦しかった3年前のあの夏。もうあんな想いはしたくない。

「そっか……。聞いちゃいけないことだったかな。ごめんね」
「ううん。不思議だよね。隼人ってどんなに頑張っても隠し切れないチャラさがあるしねぇ」

ジュースを飲む二人は笑い転げた。

「ふふっ。でも美月ちゃん幸せそう」
「うん。幸せ。これからもずっと隼人と一緒にいられたらいいなって思ってる」

飯盒係の男達の呼ぶ声が聞こえて、美月と沙羅のナイショ話はお開きになった。

 辺りが薄暗くなり、いよいよ雰囲気もキャンプらしくなってきた。カレーのいい匂いと飯盒で炊いたほかほかのご飯。七人分の“いただきます”が響き渡る。

『やっぱり女の子が二人いると華やかだよなぁ』

山盛りのカレーを頬張る緒方晴が美月と沙羅を交互に見て言うと、それに結城星夜が反応した。

『ああ、まじ最高! 可愛い子犬の沙羅と可愛い子猫の美月ちゃん、二人とも俺に飼われてみない?』
『おい星夜。美月の飼い主は俺だ』

星夜に反論するのは隼人。このメンバーでは、晴、星夜、隼人は口数が多く、三人が揃うといつも賑やかだ。

『沙羅はともかく、美月ちゃんはこの際、飼い主変更してみるのもありだろ。美月ちゃんもいい加減、エロ帝王に嫌気が差してるだろうから』
『だよなー。隼人はキャンプに来ても美月ちゃんにベッタリで暑苦しい』
『うるせー、腹黒王子にムッツリスケベ。そう言う時だけ兄弟仲良くなるな。悠真は平安時代に旅立ってろ』

高園悠真と高園海斗、高園兄弟の呟きに隼人が毒気づく。沙羅が首を傾げて美月に耳打ちした。

「なんで平安時代?」
「悠真くんの高校時代のアダ名が光源氏だったらしいよ」
「あー……それで平安時代……」
「ちなみに隼人の高校時代のあだ名が帝王で女タラシだったから、“エロ帝王”になったの」
「隼人くんのアダ名も似合うかも!」

 仲間と笑い合う美月の様子をカメラのレンズ越しに捉えている男がいた。明鏡大学の准教授、柴田雅史だ。
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