早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
──あの夏から8年の歳月が流れた。
2009年7月7日(Tue)
僕はパソコンの画面から顔を上げて棚の上にある金魚鉢を見た。ころんとしたまあるい形の金魚鉢に金魚はいない。
水を入れた丸い海の中でゆらゆらと水草だけが揺れている。
扉をノックする音で立ち上がった。開けた扉から僕の部屋に入ってきたのはKeyだ。
『仕事は進んでいるかい?』
『まぁまぁです。今回はレベルが高いですね』
『腕が鳴るだろう?』
口元を斜めにしたKeyが空っぽの金魚鉢を覗き込んだ。
『今年も金魚は入れないのか?』
『ええ』
『アンナのため、か……』
かつて僕の前にKey《キー》と名乗り現れた男が呟いた。今は彼をKeyとは呼ばない。
Keyこそ、犯罪組織カオスのキング、貴嶋佑聖なのだから。
今年もまた、杏奈とアンナのいない夏が巡ってきた。
今日は七夕、天気は雨。梅雨明け前の最後の大雨のようだ。七夕に降る雨は催涙雨《さいるいう》と呼ばれている。
『じゃあよろしく頼むよ。スパイダー』
『はい』
キングが”僕の名前”を呼んだ。そう、これが僕の名前。
*
山内慎也、彼のもうひとつの名前は犯罪組織カオスの〈スパイダー〉
※桜井物産裏金データ流出事件(2001年)
episode1.金魚鉢 END
→episode2.人魚姫 に続く
2009年7月7日(Tue)
僕はパソコンの画面から顔を上げて棚の上にある金魚鉢を見た。ころんとしたまあるい形の金魚鉢に金魚はいない。
水を入れた丸い海の中でゆらゆらと水草だけが揺れている。
扉をノックする音で立ち上がった。開けた扉から僕の部屋に入ってきたのはKeyだ。
『仕事は進んでいるかい?』
『まぁまぁです。今回はレベルが高いですね』
『腕が鳴るだろう?』
口元を斜めにしたKeyが空っぽの金魚鉢を覗き込んだ。
『今年も金魚は入れないのか?』
『ええ』
『アンナのため、か……』
かつて僕の前にKey《キー》と名乗り現れた男が呟いた。今は彼をKeyとは呼ばない。
Keyこそ、犯罪組織カオスのキング、貴嶋佑聖なのだから。
今年もまた、杏奈とアンナのいない夏が巡ってきた。
今日は七夕、天気は雨。梅雨明け前の最後の大雨のようだ。七夕に降る雨は催涙雨《さいるいう》と呼ばれている。
『じゃあよろしく頼むよ。スパイダー』
『はい』
キングが”僕の名前”を呼んだ。そう、これが僕の名前。
*
山内慎也、彼のもうひとつの名前は犯罪組織カオスの〈スパイダー〉
※桜井物産裏金データ流出事件(2001年)
episode1.金魚鉢 END
→episode2.人魚姫 に続く