早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】

episode2.人魚姫




浅丘美月
…20歳。誕生日は7月30日
明鏡大学総合文化学部2年生
ミステリー研究会 会員

松田宏文
…21歳。明鏡大学経済学部4年
ミステリー研究会 会長

石川比奈
…19歳。明鏡大学文学部2年
美月の親友

木村隼人
…25歳。会社員、美月の恋人

渡辺 亮
…25歳。大学院生、隼人の幼なじみ


         *


2009年7月8日(Wed)午後4時

 明鏡大学14号館の講義室には、明鏡大学ミステリー研究会の会員が集まっている。会員の視線はホワイトボードの前に立つ研究会の会長、松田宏文に向いていた。

『次の会報誌のテーマは童話。童話を題材にしたミステリーを書いてもらおうと思います。ミステリー観点からの考察でも良し、小説でも良し』

松田がホワイトボードに大きく童話と書いた。3年生の橋本が挙手をした。

『童話って例えば白雪姫とかですか?』
『そうそう。白雪姫なら毒リンゴだから毒殺だね。あの毒リンゴには何の毒が塗られていたのか……』
『王子は死体愛好家だったとも言われていますよね。普通は死人にキスなんてできませんよ』
『面白いよね。ああ、人魚姫もいいな。人魚姫が王子を奪った人間の女をこう、グサッとさ』

 松田がペンをナイフに見立てて橋本の腹部を刺すジェスチャーをすると室内に笑いが巻き起こる。

「会長、趣味悪いですよー」

メモをとる副会長の女生徒は顔をしかめているが、松田は至って涼しい顔だ。

『このサークルに趣味のいい人間がいると思う? だいたい、白雪姫も人魚姫も誰かを殺そうと企てる時点でミステリーなんだよ。あの手の童話は立派なミステリーだ』

 松田の言葉に何人かの学生が頷いていた。ここに集うのは仮にもミステリー研究会の会員。古今東西、あらゆるミステリーやサスペンスものの推理小説を読み耽る人間達の集まりなのだ。

(ミステリー研究会の会長になる人ってこんな人ばかりなのかなぁ。松田先輩って初めて会った時の隼人と少し似てるかも)

 一番後ろの席に座る浅丘美月は時折、苦笑しながら松田と会員達のやりとりを眺めていた。

先月1ヶ月、大学を休学していた美月は今月になって復学した。定例になっているミステリー研究会の会合に参加するのも1ヶ月ぶりだ。

『えー、それと夏休み恒例のミステリーイベントは事前アンケートの結果、今年は夜の水族館に宿泊するプランで進行します。夜の水族館で何が起きるのかは……皆さんお楽しみに』

 松田の解散の合図で会合が終了した。
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