早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
それは3年前の夏。そう、もうすぐあの夏から3年になる。
『どうした? ぼーっとして』
「あ、いえ……」
美月が休学する前に会った時、確かに彼女は悲しげな顔をしていた。あの悲しげな顔の原因は彼女を誹謗中傷する噂だった。
だとすれば今の作り笑いの原因は? 復学して今日初めて会った美月の笑顔は前と違っていた。
『最近、彼氏と上手くいってる?』
「まぁ……普通です」
うつむいてレモンタルトを頬張る美月の表情は固い。
『普通か。上手くいってるともいっていないとも、どちらでも判断できるね。付き合ってどれくらいだっけ?』
「もうすぐ3年です」
『3年……長いね』
「先輩は彼女いるんですか?」
今は自分の話を控えたかった美月は話題を変えた。ぎこちなくなる空気に堪えられなくなったからだが、松田は話が面白い方向に向いてきたと思った。
『いると思う?』
「私、先輩にはずっと彼女がいると思っていました」
『その推理を導き出した過程が知りたいな』
「推理ってほどでもないですけど……顔は爽やかイケメンって感じで格好いいですし、リーダーシップがあって女の子には優しいし、普通にしていれば絶対にモテますよね」
『普通にって……俺、そんなに普通じゃない?』
松田が肩を震わせて笑う中、美月は首を縦に大きく振った。
「先輩がミステリーの話を始めたらアウトです。あれだと女の子は引いちゃいますよ」
『浅丘さんは引かないの?』
「私はミステリー好きですから。先輩のミステリーのお話を聞くのも好きです」
『ミス研入るくらいだもんね。“初恋はシャーロック・ホームズです”は、なかなかインパクトあったよ』
サークルに入部したての頃の自己紹介で美月が言ったことだ。美月は顔を赤くして苦笑いした。
「だから彼女になる人もミステリー好きじゃないと無理じゃないかなぁって」
『確かにね。それで彼女と揉めたことも過去にはあったなぁ。でも今回に限っては浅丘さんの推理はハズレ。彼女いないよ。……好きな子はいるけどね』
「えっ! 好きな子いるんですか?」
松田の意味ありげな視線に美月は気付かない。
『どうした? ぼーっとして』
「あ、いえ……」
美月が休学する前に会った時、確かに彼女は悲しげな顔をしていた。あの悲しげな顔の原因は彼女を誹謗中傷する噂だった。
だとすれば今の作り笑いの原因は? 復学して今日初めて会った美月の笑顔は前と違っていた。
『最近、彼氏と上手くいってる?』
「まぁ……普通です」
うつむいてレモンタルトを頬張る美月の表情は固い。
『普通か。上手くいってるともいっていないとも、どちらでも判断できるね。付き合ってどれくらいだっけ?』
「もうすぐ3年です」
『3年……長いね』
「先輩は彼女いるんですか?」
今は自分の話を控えたかった美月は話題を変えた。ぎこちなくなる空気に堪えられなくなったからだが、松田は話が面白い方向に向いてきたと思った。
『いると思う?』
「私、先輩にはずっと彼女がいると思っていました」
『その推理を導き出した過程が知りたいな』
「推理ってほどでもないですけど……顔は爽やかイケメンって感じで格好いいですし、リーダーシップがあって女の子には優しいし、普通にしていれば絶対にモテますよね」
『普通にって……俺、そんなに普通じゃない?』
松田が肩を震わせて笑う中、美月は首を縦に大きく振った。
「先輩がミステリーの話を始めたらアウトです。あれだと女の子は引いちゃいますよ」
『浅丘さんは引かないの?』
「私はミステリー好きですから。先輩のミステリーのお話を聞くのも好きです」
『ミス研入るくらいだもんね。“初恋はシャーロック・ホームズです”は、なかなかインパクトあったよ』
サークルに入部したての頃の自己紹介で美月が言ったことだ。美月は顔を赤くして苦笑いした。
「だから彼女になる人もミステリー好きじゃないと無理じゃないかなぁって」
『確かにね。それで彼女と揉めたことも過去にはあったなぁ。でも今回に限っては浅丘さんの推理はハズレ。彼女いないよ。……好きな子はいるけどね』
「えっ! 好きな子いるんですか?」
松田の意味ありげな視線に美月は気付かない。