早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
 隼人の自宅のベッドは隼人の香りが充満している。色違いのパジャマを着て眠る恋人達は今夜は何の夢を見る?

 隼人の腕に包まれて、彼とキスをして、美月は目を閉じた。

聞きたいことを聞けないまま、言いたいことを言えないまま、それでも隼人の温もりに包まれると安心する。ここが世界で一番、安心できる場所のはずだ。

 隼人から贈られたハタチの誕生日プレゼントはムーンストーンのついた指輪だった。美月が前に母親から貰ったムーンストーンのネックレスと似たデザインで、ネックレスと指輪をお揃いで付けれるようにと隼人は考えたようだ。

 彼は指輪を左手の薬指に嵌めてくれた。その意味は言葉がなくても美月にはわかる。
側にいてくれと言った隼人の言葉を信じている。だけど時々、不安に押し潰されそうで怖い。

隼人の心にいるもうひとりの存在に負けてしまいそうで怖い。

聞きたいことほど聞けなくて
言いたいことほど言えなくて

聞きたいことはひとつだけ
言いたいことはひとつだけ

 隼人の心には今……誰がいるの?


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