早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
クラゲの水槽を通過して東側の経路を辿ると目的のアクアトンネルが見えてきた。しながわアクアリウム最大の目玉であるアクアトンネルは全長25メートル、凹の形をしたドーム型の海中トンネルだ。
先月に松田と初めてこの水族館を訪れた時から美月はアクアトンネルが気に入っていた。
東側の入り口からトンネル内に入ると、青い照明に照らされた世界は海の中にいる気分になる。スキューバダイビングでもしているみたいだ。
魚達が頭上や左右をゆっくりと泳いでいくのを眺めながらトンネルを進む。凹の形のちょうど中間地点、カーブしている曲がり角を曲がったところで美月の歩みは止まった。
カーブの先に人がいる。その人は手すりに体を預けて頭上に広がる海の世界を眺めていた。
『……浅丘さん? どうしたの?』
美月に気付いた松田宏文が驚いた顔をしている。美月も、まさかここで彼と落ち合うとは思わなかった。
「……目が覚めちゃって……」
『ははっ。俺も同じ。なんか眠れなくてさ。ここに来たくなった』
「ここにいると、自分が海に潜っているみたいで不思議な気持ちになります」
美月は通路を挟んで向かい側の手すりに彼と同じように体を預けた。
『人魚姫になった気分?』
「先輩、人魚姫好きですね」
『好きだよ。特に最後に王子を殺せなくて泡になって消えるところがね。……飲み会で余ったのくすねてきたんだけど、飲む?』
松田はコンビニのビニール袋に入ったチューハイを美月に差し出した。彼自身は缶ビールを手にしている。美月は数歩進み出て手を伸ばしてチューハイの缶を受け取った。
「いただきます」
チューハイはカルピス味だ。二人はしばらく無言でアルコールを体に入れた。
(どうしよう。先輩と二人きり……。でも告白は断ってるし……)
彼と二人きりでは気まずさが消せない。だから松田が突然口を開いた時は、心臓がドキッと跳ねた。
『浅丘さんの彼氏の幼なじみに渡辺亮っているだろ? 亮くんは俺の従兄弟なんだよ』
「えっ……ええっ? 嘘……」
『ホント。俺の父さんの姉が亮くんの母さん。世間って狭いよなぁ』
驚愕する美月を見て松田は笑っている。
(先輩と亮くんが従兄弟?)
先月に松田と初めてこの水族館を訪れた時から美月はアクアトンネルが気に入っていた。
東側の入り口からトンネル内に入ると、青い照明に照らされた世界は海の中にいる気分になる。スキューバダイビングでもしているみたいだ。
魚達が頭上や左右をゆっくりと泳いでいくのを眺めながらトンネルを進む。凹の形のちょうど中間地点、カーブしている曲がり角を曲がったところで美月の歩みは止まった。
カーブの先に人がいる。その人は手すりに体を預けて頭上に広がる海の世界を眺めていた。
『……浅丘さん? どうしたの?』
美月に気付いた松田宏文が驚いた顔をしている。美月も、まさかここで彼と落ち合うとは思わなかった。
「……目が覚めちゃって……」
『ははっ。俺も同じ。なんか眠れなくてさ。ここに来たくなった』
「ここにいると、自分が海に潜っているみたいで不思議な気持ちになります」
美月は通路を挟んで向かい側の手すりに彼と同じように体を預けた。
『人魚姫になった気分?』
「先輩、人魚姫好きですね」
『好きだよ。特に最後に王子を殺せなくて泡になって消えるところがね。……飲み会で余ったのくすねてきたんだけど、飲む?』
松田はコンビニのビニール袋に入ったチューハイを美月に差し出した。彼自身は缶ビールを手にしている。美月は数歩進み出て手を伸ばしてチューハイの缶を受け取った。
「いただきます」
チューハイはカルピス味だ。二人はしばらく無言でアルコールを体に入れた。
(どうしよう。先輩と二人きり……。でも告白は断ってるし……)
彼と二人きりでは気まずさが消せない。だから松田が突然口を開いた時は、心臓がドキッと跳ねた。
『浅丘さんの彼氏の幼なじみに渡辺亮っているだろ? 亮くんは俺の従兄弟なんだよ』
「えっ……ええっ? 嘘……」
『ホント。俺の父さんの姉が亮くんの母さん。世間って狭いよなぁ』
驚愕する美月を見て松田は笑っている。
(先輩と亮くんが従兄弟?)