早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
君を罪の海に引き摺り込んだのは俺だから
君は俺を許さなくていい
君を手に入れるために
俺は君にも罪を負わせた
だから俺を愛さなくてもいい
愛さなくていいから今はただ二人で
一緒に落ちていこう 深い海の底へ
一夜だけの青い夢の世界に溺れていよう
俺に愛していると囁かれて
哀しげな顔で何も言えない君に罪の意識と愛しさが募る
受け入れてくれるその手は温かくて優しくて
その手を離すまいと、ぎゅっと君の手を握り締めた
利用しろ、なんて甘い言葉で君を惑わせてごめん
君が欲しかったから手に入れた
ただそれだけなんだ
己の欲のために君に罪を犯させた俺は名探偵じゃなく立派な罪人《つみびと》だ
でもいいんだ
好きな女をこの腕に閉じ込められるのなら、俺は罪人になる道を選ぶ
ごめん、やっぱりどうしようもなく君を愛してる。
──これは人魚に恋をした男のもうひとつの人魚姫のストーリー。
男は優雅に泳いでいた美しい人魚を網で捕らえた罪人だ。
捕らえた人魚との一夜限りの契り。
この白い脚が尾びれに戻る前に。
一夜の魔法が解けるまで、君を感じていたい……
*
アクアトンネルの青色の照明が美月と松田を照らしている。彼は床に寝そべり、頭上を泳ぐ魚の群れを眺めた。
松田の右隣には美月が寄り添って同じように頭上にあるドーム型の水槽を見つめている。
『寒くない?』
美月の上には松田が羽織っていたシャツがかけられている。彼はそれを美月の肩まで引き上げた。
「大丈夫。先輩があったかいから」
もぞもぞと松田の脇の下に入り込む美月は主人に甘える子猫みたいで可愛らしい。
たった一夜の罪のはずだった。でもこの一夜で余計に愛しさが増して美月を離したくなくなってしまった。
彼女がもし恋人と別れて自分のもとに来ることを選ぶのなら決して離したりしないのに。
美月の香りを、美月のぬくもりを記憶するように、この一夜の罪深き恋物語を永遠に記憶するように、何度目かわからないキスを交わして、何度目かわからないほど抱き合った。
足元から少し離れた場所に空になった酒の缶とつまみの袋、口を結んだコンビニの袋が無造作に放り出されていた。
コンビニの袋の中にはくしゃくしゃになったティッシュがあり、そこには解放した男の欲の塊が詰まっている。
好きだからこそ彼女を大切にしたい。
無責任なことはできなくて、最後の最後で引き留めた松田と美月の理性が身体の交わりを阻《はば》んだ。二人共、そこを越えるほど馬鹿ではない。
それでも罪悪感と背徳感の象徴でしかないあれはトイレに捨てるしかない。
君は俺を許さなくていい
君を手に入れるために
俺は君にも罪を負わせた
だから俺を愛さなくてもいい
愛さなくていいから今はただ二人で
一緒に落ちていこう 深い海の底へ
一夜だけの青い夢の世界に溺れていよう
俺に愛していると囁かれて
哀しげな顔で何も言えない君に罪の意識と愛しさが募る
受け入れてくれるその手は温かくて優しくて
その手を離すまいと、ぎゅっと君の手を握り締めた
利用しろ、なんて甘い言葉で君を惑わせてごめん
君が欲しかったから手に入れた
ただそれだけなんだ
己の欲のために君に罪を犯させた俺は名探偵じゃなく立派な罪人《つみびと》だ
でもいいんだ
好きな女をこの腕に閉じ込められるのなら、俺は罪人になる道を選ぶ
ごめん、やっぱりどうしようもなく君を愛してる。
──これは人魚に恋をした男のもうひとつの人魚姫のストーリー。
男は優雅に泳いでいた美しい人魚を網で捕らえた罪人だ。
捕らえた人魚との一夜限りの契り。
この白い脚が尾びれに戻る前に。
一夜の魔法が解けるまで、君を感じていたい……
*
アクアトンネルの青色の照明が美月と松田を照らしている。彼は床に寝そべり、頭上を泳ぐ魚の群れを眺めた。
松田の右隣には美月が寄り添って同じように頭上にあるドーム型の水槽を見つめている。
『寒くない?』
美月の上には松田が羽織っていたシャツがかけられている。彼はそれを美月の肩まで引き上げた。
「大丈夫。先輩があったかいから」
もぞもぞと松田の脇の下に入り込む美月は主人に甘える子猫みたいで可愛らしい。
たった一夜の罪のはずだった。でもこの一夜で余計に愛しさが増して美月を離したくなくなってしまった。
彼女がもし恋人と別れて自分のもとに来ることを選ぶのなら決して離したりしないのに。
美月の香りを、美月のぬくもりを記憶するように、この一夜の罪深き恋物語を永遠に記憶するように、何度目かわからないキスを交わして、何度目かわからないほど抱き合った。
足元から少し離れた場所に空になった酒の缶とつまみの袋、口を結んだコンビニの袋が無造作に放り出されていた。
コンビニの袋の中にはくしゃくしゃになったティッシュがあり、そこには解放した男の欲の塊が詰まっている。
好きだからこそ彼女を大切にしたい。
無責任なことはできなくて、最後の最後で引き留めた松田と美月の理性が身体の交わりを阻《はば》んだ。二人共、そこを越えるほど馬鹿ではない。
それでも罪悪感と背徳感の象徴でしかないあれはトイレに捨てるしかない。