早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
8月10日(Mon)午後8時
「うん! やっぱりヒイラギの焼き鳥は美味しいわぁ……」
行きつけの立ち飲み屋、ヒイラギでビールを飲む真紀の隣で焼き鳥を頬張るのは人気女優の本庄玲夏。真紀の休みと玲夏の休みが重なり、今夜は久しぶりの飲み会となった。
「大口開けて焼き鳥とビール両手に持ってるこの人が女優だなんて誰も信じないよね」
「気取ったご飯は会食やパーティーで食べ飽きてるからねぇ。この後、ラーメン行くでしょ?」
真紀と玲夏の飲み会の〆はいつもラーメンと決まっている。
「当然。池袋に新しい店見つけたんだ」
「もしかして一輝くんに教えてもらったところ?」
玲夏の口から矢野の名前が出て真紀は飲んでいたビールを溢しそうになった。確かにこの後行く予定のラーメン屋は矢野に連れて行ってもらった店だ。
それにしてもどうしてこのタイミングで玲夏から彼の名前が出るのだろう。
「真紀、顔真っ赤よ! なになに? 一輝くんと何かあった?」
「ちょ、変なこと言わないでよ。何もないわよ! 顔が赤いのはビールのせい!」
口元についたビールをハンカチで拭う。玲夏は早河の元恋人なのだから早河繋がりで矢野とも親しい。
彼女が矢野の話をするのも珍しいことではないのに何故こんなに動揺しているのか、自分でもよくわからない。
隣を見ると含み笑いをする玲夏がタレのたっぷりついた焼き鳥を幸せそうな顔で咀嚼していた。真紀は噎せた喉をグラスの水で潤して、数回咳き込んだ。
「玲夏……矢野くんから何か聞いた?」
「ううん。何も。でも仁からは一輝くんが真紀を頻繁に誘ってるって話は聞いてるよ」
2ヶ月前の6月に玲夏はある調査を探偵の早河仁に依頼していた。別れてから2年振りの再会を果たした二人はその調査をきっかけにして最近は友人関係を築いているようだ。
「早河さんとはよく会ってるんだ?」
「たまにね。なぎさちゃんも一緒に三人でご飯食べに行ったりしてる」
「もう吹っ切れたの?」
玲夏は早河と別れてからの2年間、早河の話題を一度も持ち出さなかった。真紀も玲夏の前で早河の名前を出すことはなかった。
「うん! やっぱりヒイラギの焼き鳥は美味しいわぁ……」
行きつけの立ち飲み屋、ヒイラギでビールを飲む真紀の隣で焼き鳥を頬張るのは人気女優の本庄玲夏。真紀の休みと玲夏の休みが重なり、今夜は久しぶりの飲み会となった。
「大口開けて焼き鳥とビール両手に持ってるこの人が女優だなんて誰も信じないよね」
「気取ったご飯は会食やパーティーで食べ飽きてるからねぇ。この後、ラーメン行くでしょ?」
真紀と玲夏の飲み会の〆はいつもラーメンと決まっている。
「当然。池袋に新しい店見つけたんだ」
「もしかして一輝くんに教えてもらったところ?」
玲夏の口から矢野の名前が出て真紀は飲んでいたビールを溢しそうになった。確かにこの後行く予定のラーメン屋は矢野に連れて行ってもらった店だ。
それにしてもどうしてこのタイミングで玲夏から彼の名前が出るのだろう。
「真紀、顔真っ赤よ! なになに? 一輝くんと何かあった?」
「ちょ、変なこと言わないでよ。何もないわよ! 顔が赤いのはビールのせい!」
口元についたビールをハンカチで拭う。玲夏は早河の元恋人なのだから早河繋がりで矢野とも親しい。
彼女が矢野の話をするのも珍しいことではないのに何故こんなに動揺しているのか、自分でもよくわからない。
隣を見ると含み笑いをする玲夏がタレのたっぷりついた焼き鳥を幸せそうな顔で咀嚼していた。真紀は噎せた喉をグラスの水で潤して、数回咳き込んだ。
「玲夏……矢野くんから何か聞いた?」
「ううん。何も。でも仁からは一輝くんが真紀を頻繁に誘ってるって話は聞いてるよ」
2ヶ月前の6月に玲夏はある調査を探偵の早河仁に依頼していた。別れてから2年振りの再会を果たした二人はその調査をきっかけにして最近は友人関係を築いているようだ。
「早河さんとはよく会ってるんだ?」
「たまにね。なぎさちゃんも一緒に三人でご飯食べに行ったりしてる」
「もう吹っ切れたの?」
玲夏は早河と別れてからの2年間、早河の話題を一度も持ち出さなかった。真紀も玲夏の前で早河の名前を出すことはなかった。