早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
5月24日(Sun)午後10時
自宅にいた明日香の携帯電話がメールの着信音を鳴らした。アドレス帳登録外のメールアドレスは明日香の知らないアドレスだ。
件名は〈ageha〉、アドレスのドメイン名にもagehaが使われていた。迷惑メールかもしれないと読まずに削除しようとした明日香の指が削除ボタンの寸前で止まる。
メールの内容が気になった。本文を読むだけならばコンピューターウイルスに感染することもないだろう。
削除をキャンセルして本文を開く。
──〈南明日香様、初めまして。agehaと申します。〉
その一文で始まったメールには写真データが添付されていた。
「なんなの……どうして……?」
添付された写真データには柴田と浅丘美月が写っていた。ラブホテルとおぼしき看板の側を二人が腕を組んで歩いている。
本文の末尾に綴られた呪いの一文。
──〈南様。浅丘美月を破滅させたくないですか?〉
魅惑的な呪いの言葉が明日香の脳内を占拠する。破滅? 浅丘美月を?
気付いた時には返信設定にしたメール画面に文を打ち込んでいた。
──〈agehaさん。どこの誰だか知りませんが何が目的ですか?〉
すぐにagehaから返信が来た。
──〈私も浅丘美月に恨みを持っている者です。南様、私と手を組みませんか?〉
──〈手を組む?〉
──〈柴田雅史はあなたの嫌いな浅丘美月を愛している。写真を見ておわかりでしょう? 二人はこのホテルで愛し合ったのです。浅丘美月は男を手玉にとる悪女ですよ〉
耳を傾けてはいけない悪魔の囁きが明日香の思考を浸蝕《しんしょく》する。
──〈あなたの大好きな先生を寝盗ったあの女が憎いでしょう? あなたが嫌いな浅丘美月を抱いたあの男を許せますか?〉
憎い。許せない。憎い、許せない。二人とも……許せない。
──〈浅丘美月と柴田雅史、二人を裁くお手伝いをさせてください〉
それから4日後の5月28日午後4時、明鏡大学構内で事件は起きた。
第一章 END
→第二章 毒牙 ‐ロベリア‐ に続く
自宅にいた明日香の携帯電話がメールの着信音を鳴らした。アドレス帳登録外のメールアドレスは明日香の知らないアドレスだ。
件名は〈ageha〉、アドレスのドメイン名にもagehaが使われていた。迷惑メールかもしれないと読まずに削除しようとした明日香の指が削除ボタンの寸前で止まる。
メールの内容が気になった。本文を読むだけならばコンピューターウイルスに感染することもないだろう。
削除をキャンセルして本文を開く。
──〈南明日香様、初めまして。agehaと申します。〉
その一文で始まったメールには写真データが添付されていた。
「なんなの……どうして……?」
添付された写真データには柴田と浅丘美月が写っていた。ラブホテルとおぼしき看板の側を二人が腕を組んで歩いている。
本文の末尾に綴られた呪いの一文。
──〈南様。浅丘美月を破滅させたくないですか?〉
魅惑的な呪いの言葉が明日香の脳内を占拠する。破滅? 浅丘美月を?
気付いた時には返信設定にしたメール画面に文を打ち込んでいた。
──〈agehaさん。どこの誰だか知りませんが何が目的ですか?〉
すぐにagehaから返信が来た。
──〈私も浅丘美月に恨みを持っている者です。南様、私と手を組みませんか?〉
──〈手を組む?〉
──〈柴田雅史はあなたの嫌いな浅丘美月を愛している。写真を見ておわかりでしょう? 二人はこのホテルで愛し合ったのです。浅丘美月は男を手玉にとる悪女ですよ〉
耳を傾けてはいけない悪魔の囁きが明日香の思考を浸蝕《しんしょく》する。
──〈あなたの大好きな先生を寝盗ったあの女が憎いでしょう? あなたが嫌いな浅丘美月を抱いたあの男を許せますか?〉
憎い。許せない。憎い、許せない。二人とも……許せない。
──〈浅丘美月と柴田雅史、二人を裁くお手伝いをさせてください〉
それから4日後の5月28日午後4時、明鏡大学構内で事件は起きた。
第一章 END
→第二章 毒牙 ‐ロベリア‐ に続く