早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
「勝手に決めつけて勝手に話進めないでよ……」
『……真紀ちゃん? えっと……落ち着いて……?』
「落ち着いていられるかバカ! とばっちり受けて危ない目に遭わせたくない? 馬鹿にしないでよ。私は刑事よ。自分の身くらい自分で守れるの、舐めないで!」
『や、うん、それはもちろんわかってる……』
怒りの形相で声を荒くする真紀に矢野は慌てふためいた。
「それで私とはもう会わないなんて……そんなこと……言わないでよ……」
途中から涙声になり、真紀の瞳から溢れた涙を見た矢野も表情を一変させる。
「勝手に私の心にズカズカ入ってきて掻き乱して……今度は勝手にいなくならないでよね……」
『それってもしかして告白?』
「……そうよ! だから責任……とりなさいよ……」
『どんな責任?』
矢野の手が真紀の髪をすく。その手つきもいつの間にか心地よく感じていた。
「矢野くんのことをこんなに好きにさせた責任」
『わかった。一生かけて責任とるから。だから許して? ……真紀』
優しいキスも耳元で囁かれる声も
髪を撫でる手も抱き締めてくれる腕も
全部、好き。大好き。
強がりの鎧、脱いでもいいかな? この人の前では弱虫で泣き虫の甘えん坊でいてもいいかな?
あなたの前では本当の私をさらけ出してもいいですか……?
*
翌朝。矢野の腕の中で幸せな目覚めを迎えた真紀は、覚醒した頭で時計を見て驚愕した。……寝坊した。
「なんでもっと早くに起こしてくれなかったのよ!」
『何度も起こしたのに起きなかっただろー』
大慌てで支度をする真紀を尻目に矢野は悠々とコーヒーを飲んで寛いでいる。
「昨日イチャイチャしまくったから寝坊も仕方ないな? 真紀、めちゃくちゃ可愛かったなぁ。一緒に入った風呂の中でも……』
「あー! それ以上言うな! バカ! 変態! ハゲ!」
『ハゲてはないけどバカの変態で結構ですよー。あ、でもよかった』
「何が?」
矢野が立ち上がり、真紀のシャツの襟元に触れる。
『キスマーク。一応、服で見えないところに計算してつけたけど俺の計算通り。さすが俺』
「計算したのかよっ!」
『計算しましたよ? 真紀は俺のものだからね。俺しか見ちゃいけないところにもたっぷり俺の痕跡つけておいた』
にやりと不敵に微笑む矢野が憎らしくも愛しい。
昨夜の情事を思い出すと顔が火照る。ベッドで愛され、風呂場でも愛され、いつまでも肌を重ね合わせていた。確かにこれでは寝坊するに決まっている。
悔しいけどこの男にベタ惚れになってしまった。
「一輝だって私のものだからね」
『ん。俺は一生、真紀のもの』
真紀の左手を持ち上げた矢野はまだ何も付けられていない薬指にキスをした。
「うわっ……キザー!」
真紀は笑って矢野に抱き付き、今度は彼女が彼に永遠の誓いのキスをした。
episode3.蝉時雨 END
→episode4.乱反射 に続く
『……真紀ちゃん? えっと……落ち着いて……?』
「落ち着いていられるかバカ! とばっちり受けて危ない目に遭わせたくない? 馬鹿にしないでよ。私は刑事よ。自分の身くらい自分で守れるの、舐めないで!」
『や、うん、それはもちろんわかってる……』
怒りの形相で声を荒くする真紀に矢野は慌てふためいた。
「それで私とはもう会わないなんて……そんなこと……言わないでよ……」
途中から涙声になり、真紀の瞳から溢れた涙を見た矢野も表情を一変させる。
「勝手に私の心にズカズカ入ってきて掻き乱して……今度は勝手にいなくならないでよね……」
『それってもしかして告白?』
「……そうよ! だから責任……とりなさいよ……」
『どんな責任?』
矢野の手が真紀の髪をすく。その手つきもいつの間にか心地よく感じていた。
「矢野くんのことをこんなに好きにさせた責任」
『わかった。一生かけて責任とるから。だから許して? ……真紀』
優しいキスも耳元で囁かれる声も
髪を撫でる手も抱き締めてくれる腕も
全部、好き。大好き。
強がりの鎧、脱いでもいいかな? この人の前では弱虫で泣き虫の甘えん坊でいてもいいかな?
あなたの前では本当の私をさらけ出してもいいですか……?
*
翌朝。矢野の腕の中で幸せな目覚めを迎えた真紀は、覚醒した頭で時計を見て驚愕した。……寝坊した。
「なんでもっと早くに起こしてくれなかったのよ!」
『何度も起こしたのに起きなかっただろー』
大慌てで支度をする真紀を尻目に矢野は悠々とコーヒーを飲んで寛いでいる。
「昨日イチャイチャしまくったから寝坊も仕方ないな? 真紀、めちゃくちゃ可愛かったなぁ。一緒に入った風呂の中でも……』
「あー! それ以上言うな! バカ! 変態! ハゲ!」
『ハゲてはないけどバカの変態で結構ですよー。あ、でもよかった』
「何が?」
矢野が立ち上がり、真紀のシャツの襟元に触れる。
『キスマーク。一応、服で見えないところに計算してつけたけど俺の計算通り。さすが俺』
「計算したのかよっ!」
『計算しましたよ? 真紀は俺のものだからね。俺しか見ちゃいけないところにもたっぷり俺の痕跡つけておいた』
にやりと不敵に微笑む矢野が憎らしくも愛しい。
昨夜の情事を思い出すと顔が火照る。ベッドで愛され、風呂場でも愛され、いつまでも肌を重ね合わせていた。確かにこれでは寝坊するに決まっている。
悔しいけどこの男にベタ惚れになってしまった。
「一輝だって私のものだからね」
『ん。俺は一生、真紀のもの』
真紀の左手を持ち上げた矢野はまだ何も付けられていない薬指にキスをした。
「うわっ……キザー!」
真紀は笑って矢野に抱き付き、今度は彼女が彼に永遠の誓いのキスをした。
episode3.蝉時雨 END
→episode4.乱反射 に続く