早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
午後5時を過ぎた空はまだ明るいものの、昼間に比べれば日差しは弱まっている。四谷に探偵事務所を構えて2年目になるが、この付近の祭りに行くのは初めてだった。
『最近カウンセリングはどうだ?』
有紗は精神科医の父親の下、昨年の事件の時に負ったPTSD(心的外傷後ストレス障害)のカウンセリングを受けている。
「無理なくやれてるよ。新しい先生がお父さんのチームに入ったんだ。神明《しんめい》先生って言うんだけど、イケメンで超優しいの! でも私は早河さん一筋だからねっ。乗り換えたりしないから安心してね」
『はいはい』
どうせならイケメンカウンセラーに乗り換えてくれた方が気が楽なのにとは口には出せない。
昼間歩いていた時は暑さでそれどころではなく気が付かなかったが、街のいたるところに赤提灯がぶら下がっている。メイン会場となる神社の周辺には屋台が並んでいた。
早河に寄り添って歩く有紗は並ぶ屋台に目を輝かせた。その顔を見ていると早河も自然と口元が綻ぶ。
初対面の有紗は茶髪に濃い化粧の非常識で生意気な家出少女だった。今の有紗は麦わら帽子からなびくロングヘアーの黒髪、化粧も前ほど派手ではない。
ファッションは相変わらずの派手さだが、それも彼女に似合っている。
女という生き物は恐ろしい。半年見ない間に有紗は随分と大人びて綺麗になった。早河を焦らせるくらいに。
昨年12月のあの事件以降、半年間の留学を終えた有紗が早河の前に現れた時、有紗は少女と女性の境目に立っていた。完全に少女だった半年前よりも今の有紗は大人に近付いている。
男は馬鹿な生き物だ。まだ子供と思っていた有紗が大人になりつつあることを悟った途端に、早河は有紗を遠ざけるようになった。
子供だからよかったことが大人になるとそうはいかなくなる。
有紗をいつまで子供扱いしていられるだろう。いつまで子供でいてくれる?
有紗が早河を困らせるのは思春期の成長だけではない。有紗は早河に恋をしている。
(俺が有紗に手を出すことはまずないだろうが……有紗は俺に手を出されることを望んでいるんだよな)
早河の懸念を知らない有紗は早河に買ってもらったりんご飴を呑気に食べていた。
(せめてまだ子供のままでいてくれよ)
それが大人の勝手なワガママなのは百も承知。有紗のことは大切に想っている。
大事な存在だ。しかしそれは親戚のおじさんが姪を見守る感覚に近いものがある。
男と女として愛してやれないとわかっているのに、期待を持たせるのは酷だ。
『最近カウンセリングはどうだ?』
有紗は精神科医の父親の下、昨年の事件の時に負ったPTSD(心的外傷後ストレス障害)のカウンセリングを受けている。
「無理なくやれてるよ。新しい先生がお父さんのチームに入ったんだ。神明《しんめい》先生って言うんだけど、イケメンで超優しいの! でも私は早河さん一筋だからねっ。乗り換えたりしないから安心してね」
『はいはい』
どうせならイケメンカウンセラーに乗り換えてくれた方が気が楽なのにとは口には出せない。
昼間歩いていた時は暑さでそれどころではなく気が付かなかったが、街のいたるところに赤提灯がぶら下がっている。メイン会場となる神社の周辺には屋台が並んでいた。
早河に寄り添って歩く有紗は並ぶ屋台に目を輝かせた。その顔を見ていると早河も自然と口元が綻ぶ。
初対面の有紗は茶髪に濃い化粧の非常識で生意気な家出少女だった。今の有紗は麦わら帽子からなびくロングヘアーの黒髪、化粧も前ほど派手ではない。
ファッションは相変わらずの派手さだが、それも彼女に似合っている。
女という生き物は恐ろしい。半年見ない間に有紗は随分と大人びて綺麗になった。早河を焦らせるくらいに。
昨年12月のあの事件以降、半年間の留学を終えた有紗が早河の前に現れた時、有紗は少女と女性の境目に立っていた。完全に少女だった半年前よりも今の有紗は大人に近付いている。
男は馬鹿な生き物だ。まだ子供と思っていた有紗が大人になりつつあることを悟った途端に、早河は有紗を遠ざけるようになった。
子供だからよかったことが大人になるとそうはいかなくなる。
有紗をいつまで子供扱いしていられるだろう。いつまで子供でいてくれる?
有紗が早河を困らせるのは思春期の成長だけではない。有紗は早河に恋をしている。
(俺が有紗に手を出すことはまずないだろうが……有紗は俺に手を出されることを望んでいるんだよな)
早河の懸念を知らない有紗は早河に買ってもらったりんご飴を呑気に食べていた。
(せめてまだ子供のままでいてくれよ)
それが大人の勝手なワガママなのは百も承知。有紗のことは大切に想っている。
大事な存在だ。しかしそれは親戚のおじさんが姪を見守る感覚に近いものがある。
男と女として愛してやれないとわかっているのに、期待を持たせるのは酷だ。