早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
真紀は美月に目で合図する。美月もその視線から何かを汲み取ったらしく、講義室を出た真紀を追って美月も廊下に出てきた。
「大丈夫?」
「はい。あの、ありがとうございました。私のために……ですよね? まだ皆に聞きたいことがあったんじゃ……」
「いいの、いいの。女の子って集団になると強いのよね。ああいう雰囲気が私は嫌いなのよ。少し話せる?」
「……はい」
二人は学部棟から中庭に出た。中庭のベンチに並んで腰掛ける。
「美月ちゃん、私のこと覚えてる?」
「えっと……すみません。どこかでお会いしましたか?」
やはり美月は3年前に真紀と会っていたことを覚えていなかった。わざわざ辛い過去を思い出させる必要はない……そうは思っても現状ではこれが彼女と打ち解ける近道だ。
「3年前の静岡の事件の時、警視庁に事情聴取に来たでしょう? その時に私はあなたと会っているのよ」
美月の目が見開き口元が震えた。彼女の様子を見て言ってしまったことを真紀は後悔した。言わない方がよかったのかもしれない。
「そうだったんですか……あの時に……。じゃあ小山さんは上野さんの……」
「上野警部は私の上司。警部から美月ちゃんの話は聞いてるよ。警部はあなたのこと自分の娘のように思ってるの。本人は独身なのにね」
視線を落としていた美月の顔にわずかに笑顔が見えた。親しい間柄の上野の話が出て、少しリラックスしたようだ。
「さっき美月ちゃんを名指しした女の子の名前わかる?」
「南さんですか?」
「ミナミ……フルネームは?」
「南明日香ちゃんです」
真紀は名簿で南明日香の名前を探した。総合文化学部2年生の欄に明日香の名前があった。
「この子、美月ちゃんにあまり好意的ではなかったよね。どんな子なの?」
「南さんとは1年生の時から同じクラスですけど、そんなに話をしたこともないんです。だからちょっとびっくりしました。私が柴田先生に気に入られてるだなんて……」
「そっか。柴田先生は美月ちゃんから見てどんな先生だった?」
「ゼミの皆が話していた通りです。先生としてはとてもいい先生でした。講義もわかりやすくて面白くて……」
美月の含みのある言葉が引っ掛かる。
「大丈夫?」
「はい。あの、ありがとうございました。私のために……ですよね? まだ皆に聞きたいことがあったんじゃ……」
「いいの、いいの。女の子って集団になると強いのよね。ああいう雰囲気が私は嫌いなのよ。少し話せる?」
「……はい」
二人は学部棟から中庭に出た。中庭のベンチに並んで腰掛ける。
「美月ちゃん、私のこと覚えてる?」
「えっと……すみません。どこかでお会いしましたか?」
やはり美月は3年前に真紀と会っていたことを覚えていなかった。わざわざ辛い過去を思い出させる必要はない……そうは思っても現状ではこれが彼女と打ち解ける近道だ。
「3年前の静岡の事件の時、警視庁に事情聴取に来たでしょう? その時に私はあなたと会っているのよ」
美月の目が見開き口元が震えた。彼女の様子を見て言ってしまったことを真紀は後悔した。言わない方がよかったのかもしれない。
「そうだったんですか……あの時に……。じゃあ小山さんは上野さんの……」
「上野警部は私の上司。警部から美月ちゃんの話は聞いてるよ。警部はあなたのこと自分の娘のように思ってるの。本人は独身なのにね」
視線を落としていた美月の顔にわずかに笑顔が見えた。親しい間柄の上野の話が出て、少しリラックスしたようだ。
「さっき美月ちゃんを名指しした女の子の名前わかる?」
「南さんですか?」
「ミナミ……フルネームは?」
「南明日香ちゃんです」
真紀は名簿で南明日香の名前を探した。総合文化学部2年生の欄に明日香の名前があった。
「この子、美月ちゃんにあまり好意的ではなかったよね。どんな子なの?」
「南さんとは1年生の時から同じクラスですけど、そんなに話をしたこともないんです。だからちょっとびっくりしました。私が柴田先生に気に入られてるだなんて……」
「そっか。柴田先生は美月ちゃんから見てどんな先生だった?」
「ゼミの皆が話していた通りです。先生としてはとてもいい先生でした。講義もわかりやすくて面白くて……」
美月の含みのある言葉が引っ掛かる。