早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
6月1日(Mon)
世田谷区上野毛一丁目に所在する東急電鉄、上野毛《かみのげ》駅の改札前で石川比奈は美月を待っていた。
この駅は比奈と美月の家の最寄り駅であり、同じ明鏡大学に通う二人は始業時間の重なる日は、いつも駅で待ち合わせている。
(美月遅いなぁ。やっぱり今日は学校行くの無理かな。家に様子見に行った方がよかったかも……)
携帯電話を見ては美月宛にメールを送ろうか迷う。美月を誹謗中傷するあのチェーンメールは比奈の元にも届いた。
読んですぐに怒り狂ってメールは削除したが、別の学生からまた同様のチェーンメールが回ってきた。
削除してもまた違う人間からチェーンメールが送られてくる。それも比奈の携帯に登録外の、知らないメールアドレスからだ。
比奈が美月の友達だと知っている誰かが、わざと比奈に集中的にチェーンメールが回るように仕組んでいるみたいだった。
例のチェーンメールは明鏡大学のほとんどの学生に広まっていると言っていい。メールを読んだ学生達は内容の真偽など関係なく面白がって拡散する。
ネットの掲示板にもメールの内容が貼られ、明鏡大学以外の人間が美月を中傷する書き込みをしていた。美月が柴田を殺したんじゃないかと書き込んだ人間もいる。
こんなこと絶対に許せない。
(美月が人を殺すわけないでしょ。だってあの子は……あんなに辛い思いをしてまで3年前に……)
「比奈」
「……美月っ!」
「遅くなってごめんね」
駅に現れた美月はメイクをしていたが、泣き腫らして充血した目元は隠し切れていない。
「全然いいよ! それより大丈夫?」
「うん。単位もあるし……行かなきゃ」
力無く笑う美月を見ていられなくて、比奈は美月を抱き締めた。
「無理しないでね。何かあったらいつでも私に言って。お昼はそっちに迎えに行くから」
「ありがとう……。ねぇ、比奈は私のこと信じてくれる?」
比奈は美月の頬を両手で挟んだ。柔らかな白い頬には赤みがなく、潤んだ目元が比奈を映す。
「美月は私のこと信じられないの?」
「そんなことないけど……」
「柴田先生とは何もないんでしょ。あの写真や先生の携帯にあった美月とのメールは合成写真とハッキングで作られたものだってお父さんがこっそり教えてくれたの」
比奈の父親は警視庁組織犯罪対策部の石川警部だ。
「合成だったとか、そんなの知らなくても私は美月の言葉だけを信じてる。親友ってノリで言ってるんじゃないよ? 信じてるから親友なの。わかった?」
「……ひなぁ……」
「せっかくメイクしたのに泣いたらマスカラ取れちゃうよっ」
カバンからハンカチを出して涙を溢す美月の目元を優しく拭った。
二人は改札を通ってホームに降りる。
「チェーンメールのこと隼人くんには話したの?」
「話した。隼人のとこにもメール回ってきたみたい」
「うわぁ……最悪。一体誰があんなことやってるんだろう。犯人見つけたらお父さんに頼んで私がボコボコにしてやるんだから!」
憤慨する比奈に美月は寄り添った。大丈夫。信じてくれる人がいるから……きっと大丈夫。
比奈に連れられて美月は渋谷区の明鏡大学の門をくぐる。予想通り、すれ違う学生達は美月を指差しては白い目を向けて笑っていた。
「あの子だよ! チェーンメールの……」
「あんなメール回されてよく学校来れたね」
「柴田に身体売っていくら貰ったのかな」
教室に入っても聞こえてくる陰口。誰も美月に話しかけずに冷たい視線を送る。
孤立する美月を見て南明日香がほくそ笑んでいた。
世田谷区上野毛一丁目に所在する東急電鉄、上野毛《かみのげ》駅の改札前で石川比奈は美月を待っていた。
この駅は比奈と美月の家の最寄り駅であり、同じ明鏡大学に通う二人は始業時間の重なる日は、いつも駅で待ち合わせている。
(美月遅いなぁ。やっぱり今日は学校行くの無理かな。家に様子見に行った方がよかったかも……)
携帯電話を見ては美月宛にメールを送ろうか迷う。美月を誹謗中傷するあのチェーンメールは比奈の元にも届いた。
読んですぐに怒り狂ってメールは削除したが、別の学生からまた同様のチェーンメールが回ってきた。
削除してもまた違う人間からチェーンメールが送られてくる。それも比奈の携帯に登録外の、知らないメールアドレスからだ。
比奈が美月の友達だと知っている誰かが、わざと比奈に集中的にチェーンメールが回るように仕組んでいるみたいだった。
例のチェーンメールは明鏡大学のほとんどの学生に広まっていると言っていい。メールを読んだ学生達は内容の真偽など関係なく面白がって拡散する。
ネットの掲示板にもメールの内容が貼られ、明鏡大学以外の人間が美月を中傷する書き込みをしていた。美月が柴田を殺したんじゃないかと書き込んだ人間もいる。
こんなこと絶対に許せない。
(美月が人を殺すわけないでしょ。だってあの子は……あんなに辛い思いをしてまで3年前に……)
「比奈」
「……美月っ!」
「遅くなってごめんね」
駅に現れた美月はメイクをしていたが、泣き腫らして充血した目元は隠し切れていない。
「全然いいよ! それより大丈夫?」
「うん。単位もあるし……行かなきゃ」
力無く笑う美月を見ていられなくて、比奈は美月を抱き締めた。
「無理しないでね。何かあったらいつでも私に言って。お昼はそっちに迎えに行くから」
「ありがとう……。ねぇ、比奈は私のこと信じてくれる?」
比奈は美月の頬を両手で挟んだ。柔らかな白い頬には赤みがなく、潤んだ目元が比奈を映す。
「美月は私のこと信じられないの?」
「そんなことないけど……」
「柴田先生とは何もないんでしょ。あの写真や先生の携帯にあった美月とのメールは合成写真とハッキングで作られたものだってお父さんがこっそり教えてくれたの」
比奈の父親は警視庁組織犯罪対策部の石川警部だ。
「合成だったとか、そんなの知らなくても私は美月の言葉だけを信じてる。親友ってノリで言ってるんじゃないよ? 信じてるから親友なの。わかった?」
「……ひなぁ……」
「せっかくメイクしたのに泣いたらマスカラ取れちゃうよっ」
カバンからハンカチを出して涙を溢す美月の目元を優しく拭った。
二人は改札を通ってホームに降りる。
「チェーンメールのこと隼人くんには話したの?」
「話した。隼人のとこにもメール回ってきたみたい」
「うわぁ……最悪。一体誰があんなことやってるんだろう。犯人見つけたらお父さんに頼んで私がボコボコにしてやるんだから!」
憤慨する比奈に美月は寄り添った。大丈夫。信じてくれる人がいるから……きっと大丈夫。
比奈に連れられて美月は渋谷区の明鏡大学の門をくぐる。予想通り、すれ違う学生達は美月を指差しては白い目を向けて笑っていた。
「あの子だよ! チェーンメールの……」
「あんなメール回されてよく学校来れたね」
「柴田に身体売っていくら貰ったのかな」
教室に入っても聞こえてくる陰口。誰も美月に話しかけずに冷たい視線を送る。
孤立する美月を見て南明日香がほくそ笑んでいた。