早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
「隼人くんの紹介のとこ、メンズファッション雑誌、soul street 元読者モデルって書いてあるよ。さすが扱われ方違うよね」
「彼氏組の中でもひとりだけ慣れてるっていうか、格が違うよね。オーラが凄い」

 比奈と絵理奈が言う。美月はコロッケを頬張りつつ写真の中の恋人を一瞥した。

恥ずかしくてまともに見られないが、格好つけている彼氏を見るのはさらに照れ臭い。恋人の木村隼人とは今年で付き合って3年になる。

「いいなぁ美月。こんなイケメンの彼氏がいて」
「伝説のミスター啓徳4連覇だもんね。こんなにかっこいい人が一般人だってことが信じられない」
「前に芸能事務所にスカウトされたのも断っちゃったんでしょ?」

比奈が美月に聞いた。美月は頷いてタコの形のウインナーを口に入れる。

「芸能界には興味ないんだって。モデルの仕事も読者モデルならいいけど、本格的にモデル活動する気はないみたい。そういうことに執着ない人なのよね」
「もったいないなぁ。あの一ノ瀬蓮と張り合えるくらいかっこいいのに!」

人気俳優の一ノ瀬蓮の名前が出て、美月以外の全員が首を縦に振っていた。

(超絶カッコいい一ノ瀬蓮と張り合えるは無理がある気が……。でも隼人なら張り合える……かも?)

 美月は麻美から渡された雑誌のページをめくった。めくった次のページにはシェリOGモデルで女優の本庄玲夏のインタビュー記事が載っていた。

(本庄玲夏の刑事ドラマ今日からだ。観なくちゃ。主題歌のUN‐SWAYEDの新曲どんな感じかなぁ。楽しみ!)

        *

 美月がのんびりと昼休みを過ごしている同時刻、美月達のいるテーブルから少し離れたテーブルにいた南明日香はストローを噛んで小さく舌打ちした。

(ふん。何が4年連続ミスター啓徳よ)

浅丘美月が彼氏と一緒に雑誌に載ったことが気に入らない。明日香は乱暴に立ち上がり、その場を離れた。

(浅丘美月……むかつく。なんであの子ばかりちやほやされるの?)

 食堂を離れた明日香は購買の書籍コーナーで目当てのものを探す。確か今月号のシェリと言っていた。

書籍の棚から一冊の雑誌を引き抜いてページをめくる。明日香が見たかったページはすぐに見つかった。美月と恋人が載っているスナップページだ。

(これが浅丘美月の彼氏ね。確かにイケメン)

「むかつく……」

恋人と手を繋いで幸せそうに微笑む美月の写真を明日香は冷めた目で見下ろした。

 南明日香は総合文化学部の二年生。学部と専攻が同じ浅丘美月とは一年生の時からたびたび講義が重なり、同じ教室で学ぶ機会も多い。

明日香は美月が嫌いだった。理由はよくわからない。ただ、美月は明日香が昔から嫌いなタイプであることは間違いない。

 可愛くて穏やかで優しくてニコニコしていて皆から好かれる人気者……そんな女が昔から嫌い。大嫌い。

嫌い、気に入らない。最初はそれだけの感情だった。最初はそうだった。
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