早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
目黒駅前にある大型書店が美月のアルバイト先だ。書籍を棚に並べていた美月は後ろから声をかけられた。
「上野さん!」
振り向くと3年前から懇意にしている上野恭一郎がいた。彼は警視庁の刑事だ。
『久しぶり。近くまで来たから寄ってみたんだ。元気そうだね』
「上野さんは……ちょっとお疲れですか? クマができてます」
美月は彼の顔を見上げた。上野の穏和な顔立ちには似合わない目の下のクマが少々目立つ。
『事件ばかりで休む暇もなくてね』
「休める時にちゃんと休んでくださいね」
『ありがとう。今度また皆で食事に行こうね。木村くん達と話すと俺も若返った気分になれて楽しいんだ』
「隼人に話しておきます」
美月の優しい笑顔を見ていると上野は活力が湧いてくる。彼女の笑顔には人を幸せにする力がある。
この笑顔をずっと見守っていたい。
『じゃあ、またね。仕事と学校の方も頑張ってね』
「はぁい! 上野さんはあまり頑張り過ぎないでくださいね。でも犯人逮捕は頑張ってください!」
『あはは。うん、犯人逮捕は頑張るよ』
“あの時”高校生だった美月が今年はもう20歳を迎える。
美月の大学受験の際には合格祈願の御守りを彼女に贈り、合格発表の日は上野もそわそわとして落ち着かなかった。
第一志望の明鏡大学に合格したとメールをもらった時は上野もガッツポーズをして喜んだほど。まるで娘の成長を見ているようだ。
小学校低学年くらいの少女が学習ドリルの売り場を美月に尋ねてきた。美月は腰を屈めて少女と目線の高さを合わせて話を聞いている。
「じゃあ行こうね」
少女が何を求めているのか察した美月は、少女の手を引いて店舗の通路を歩いて行った。
書店のエプロンをつけて髪をポニーテールに結う美月はすっかり“本屋のお姉さん”が板についていた。小さな女の子にとっては、話しかけやすく親しみやすい店員なのだろう。
(あれから3年か。時が経つのは早いものだな)
美月の成長が嬉しくもある一方で一抹の寂しさも感じる。これでは本当に娘を持つ父親の気分だと苦笑いして上野は書店を後にした。
「上野さん!」
振り向くと3年前から懇意にしている上野恭一郎がいた。彼は警視庁の刑事だ。
『久しぶり。近くまで来たから寄ってみたんだ。元気そうだね』
「上野さんは……ちょっとお疲れですか? クマができてます」
美月は彼の顔を見上げた。上野の穏和な顔立ちには似合わない目の下のクマが少々目立つ。
『事件ばかりで休む暇もなくてね』
「休める時にちゃんと休んでくださいね」
『ありがとう。今度また皆で食事に行こうね。木村くん達と話すと俺も若返った気分になれて楽しいんだ』
「隼人に話しておきます」
美月の優しい笑顔を見ていると上野は活力が湧いてくる。彼女の笑顔には人を幸せにする力がある。
この笑顔をずっと見守っていたい。
『じゃあ、またね。仕事と学校の方も頑張ってね』
「はぁい! 上野さんはあまり頑張り過ぎないでくださいね。でも犯人逮捕は頑張ってください!」
『あはは。うん、犯人逮捕は頑張るよ』
“あの時”高校生だった美月が今年はもう20歳を迎える。
美月の大学受験の際には合格祈願の御守りを彼女に贈り、合格発表の日は上野もそわそわとして落ち着かなかった。
第一志望の明鏡大学に合格したとメールをもらった時は上野もガッツポーズをして喜んだほど。まるで娘の成長を見ているようだ。
小学校低学年くらいの少女が学習ドリルの売り場を美月に尋ねてきた。美月は腰を屈めて少女と目線の高さを合わせて話を聞いている。
「じゃあ行こうね」
少女が何を求めているのか察した美月は、少女の手を引いて店舗の通路を歩いて行った。
書店のエプロンをつけて髪をポニーテールに結う美月はすっかり“本屋のお姉さん”が板についていた。小さな女の子にとっては、話しかけやすく親しみやすい店員なのだろう。
(あれから3年か。時が経つのは早いものだな)
美月の成長が嬉しくもある一方で一抹の寂しさも感じる。これでは本当に娘を持つ父親の気分だと苦笑いして上野は書店を後にした。