早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
石畳と砂利で足場は悪い。あかりの拳を受け止めた拍子に砂利に足をとられた早河の身体は鳥居にぶつかり、肩を打った早河が顔を歪める。
『あんた……やっぱりただ者じゃないな。こんな動き、一般の女はそうそう出来ない』
「あなたも尾行はヘタクソでも格闘の面ではさすが元刑事ね」
あかりは早河に受け止められた拳を引いた。早河もあかりも呼吸は乱れておらず、彼は鳥居に打ち付けた左肩をさすった。
『あんたカオスの人間だろ』
「答える必要ないわ」
『じゃあ、あんたがカオスの人間だと思って聞く。あんた達はどうして今回の件で浅丘美月と木村隼人を助けた?』
「……浅丘美月は特別なのよ」
彼女は落ちてしまったコンビニの袋を拾って中身を確認している。袋の中に割れ物は入ってはなさそうだったが、落とした時に中身が崩れた食べ物でもあったのかもしれない。
『特別?』
「これを答えると私がカオスの人間だと証明するようなものね。ま、いいけど。美月ちゃんはキングの“お気に入り”なの。だから誰も手出しは許されない」
貴嶋は3年前から浅丘美月に目を付けている。青木渡は知ってか知らずか、貴嶋の逆鱗に触れてしまったのだ。
『貴嶋が浅丘美月に惚れてるって意味か?』
「その解釈は間違いではないでしょうね。キングのお考えは私にはわからないけれど、これだけは言える。キングの最終プランには美月ちゃんの存在がある」
あかりの横顔が暗い影を帯びているのは闇夜のせいか?
『貴嶋は何をしようとしている?』
「それは私の口からは言えない。探偵ならあとは自分で調べてね。……依頼人には私のことどう報告するつもり?」
『あんたはどう報告して欲しい?』
「そうね……どうとでも。あなたの報告を聞いた依頼人が何を思うかは彼の自由だもの」
あかりは早河に背を向けて階段を下った。早河はもう彼女を追わない。
依頼された仕事は終えた。あとは依頼人である木村隼人に報告するだけだ。
沢井あかりはすべてを知っている。間宮殺害のことも、今回の事件も、犯罪組織カオスのことも。それをありのまま隼人に伝えるだけだ。
『やべぇな。これは肩……外れたかも』
力強くぶつけた肩が痛んだ。帰ってから湿布を貼った方がよさそうだ。
『浅丘美月が貴嶋のお気に入り……か』
空に闇が広がる今夜、月はどこにもいなかった。
『あんた……やっぱりただ者じゃないな。こんな動き、一般の女はそうそう出来ない』
「あなたも尾行はヘタクソでも格闘の面ではさすが元刑事ね」
あかりは早河に受け止められた拳を引いた。早河もあかりも呼吸は乱れておらず、彼は鳥居に打ち付けた左肩をさすった。
『あんたカオスの人間だろ』
「答える必要ないわ」
『じゃあ、あんたがカオスの人間だと思って聞く。あんた達はどうして今回の件で浅丘美月と木村隼人を助けた?』
「……浅丘美月は特別なのよ」
彼女は落ちてしまったコンビニの袋を拾って中身を確認している。袋の中に割れ物は入ってはなさそうだったが、落とした時に中身が崩れた食べ物でもあったのかもしれない。
『特別?』
「これを答えると私がカオスの人間だと証明するようなものね。ま、いいけど。美月ちゃんはキングの“お気に入り”なの。だから誰も手出しは許されない」
貴嶋は3年前から浅丘美月に目を付けている。青木渡は知ってか知らずか、貴嶋の逆鱗に触れてしまったのだ。
『貴嶋が浅丘美月に惚れてるって意味か?』
「その解釈は間違いではないでしょうね。キングのお考えは私にはわからないけれど、これだけは言える。キングの最終プランには美月ちゃんの存在がある」
あかりの横顔が暗い影を帯びているのは闇夜のせいか?
『貴嶋は何をしようとしている?』
「それは私の口からは言えない。探偵ならあとは自分で調べてね。……依頼人には私のことどう報告するつもり?」
『あんたはどう報告して欲しい?』
「そうね……どうとでも。あなたの報告を聞いた依頼人が何を思うかは彼の自由だもの」
あかりは早河に背を向けて階段を下った。早河はもう彼女を追わない。
依頼された仕事は終えた。あとは依頼人である木村隼人に報告するだけだ。
沢井あかりはすべてを知っている。間宮殺害のことも、今回の事件も、犯罪組織カオスのことも。それをありのまま隼人に伝えるだけだ。
『やべぇな。これは肩……外れたかも』
力強くぶつけた肩が痛んだ。帰ってから湿布を貼った方がよさそうだ。
『浅丘美月が貴嶋のお気に入り……か』
空に闇が広がる今夜、月はどこにもいなかった。