早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
木村隼人が入院する病院はJR大森駅の近くに建つ総合病院。埃ひとつない清潔な廊下を通って上野恭一郎は隼人の病室の扉をノックした。
意識が戻ったばかりの隼人はまだ絶対安静で面会時間も限られている。隼人はベッドに寝たまま、顔を上野に向けた。思ったよりも顔色がいい。
『佐々木里奈がすべて自供したよ。南明日香を操って美月ちゃんに嫌がらせしていたアゲハは自分だとね』
『里奈は生きていたんですね。俺を刺した時にアイツ……自分も死ぬ気でいたんじゃないかって……』
『どうやら本人もそのつもりでいたようだけどね、スタンガンで気絶させられていたんだ』
隼人は重症だったが、里奈の身体にはスタンガンを当てられた跡以外には外傷は見当たらなかった。
『俺が意識を失くした後にあそこに誰か来たんですね?』
隼人の確信のこもる眼差しに事実の誤魔化しは通用しないと上野は悟った。木村隼人は頭の良い人間だ。隠そうとしても無駄だろう。
『俺の携帯に女の声で通報があってね。現場の場所を言い終えてすぐに切れてしまったが、救急隊員の話では止血が施されていたようだ』
『止血?』
『輸血をしたと聞いただろう? それくらいの出血量だったんだ。医者が言うには止血がなければ命の危険もあった。君が助かったのは救急車の到着までに適切な止血が施されたからなんだ』
“通報者の女”に隼人は心当たりがあった。
『それってまさかカオスのクイーンって名乗ってる寺沢莉央って女じゃないですか?』
『早河から話は聞いてるよ。寺沢莉央に会ったそうだね』
『会ったと言うか、向こうから会いに来たと言うか……。とにかく変な女でしたよ』
上野も寺沢莉央の話は、早河やなぎさから断片的に聞いている。
意識が戻ったばかりの隼人はまだ絶対安静で面会時間も限られている。隼人はベッドに寝たまま、顔を上野に向けた。思ったよりも顔色がいい。
『佐々木里奈がすべて自供したよ。南明日香を操って美月ちゃんに嫌がらせしていたアゲハは自分だとね』
『里奈は生きていたんですね。俺を刺した時にアイツ……自分も死ぬ気でいたんじゃないかって……』
『どうやら本人もそのつもりでいたようだけどね、スタンガンで気絶させられていたんだ』
隼人は重症だったが、里奈の身体にはスタンガンを当てられた跡以外には外傷は見当たらなかった。
『俺が意識を失くした後にあそこに誰か来たんですね?』
隼人の確信のこもる眼差しに事実の誤魔化しは通用しないと上野は悟った。木村隼人は頭の良い人間だ。隠そうとしても無駄だろう。
『俺の携帯に女の声で通報があってね。現場の場所を言い終えてすぐに切れてしまったが、救急隊員の話では止血が施されていたようだ』
『止血?』
『輸血をしたと聞いただろう? それくらいの出血量だったんだ。医者が言うには止血がなければ命の危険もあった。君が助かったのは救急車の到着までに適切な止血が施されたからなんだ』
“通報者の女”に隼人は心当たりがあった。
『それってまさかカオスのクイーンって名乗ってる寺沢莉央って女じゃないですか?』
『早河から話は聞いてるよ。寺沢莉央に会ったそうだね』
『会ったと言うか、向こうから会いに来たと言うか……。とにかく変な女でしたよ』
上野も寺沢莉央の話は、早河やなぎさから断片的に聞いている。