早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
 会ったことのある男からはブログ更新の直後にメールが届いた。
〈次いつ会える?〉と聞かれたので〈また今度ね〉と返す。絶対に自分から男は誘わない。

“相手が誘ってきたから仕方なく会う”これが重要だった。そこで明日香の方が男より優位に立てるからだ。

 〈あすちゃんが忘れられない〉の返信には〈私もだよ〉と返したが、このメールの男の顔を明日香は思い出せなかった。

(みんなもっと私を見てもっと褒めて。私に屈して)

 メールをくれた男達にはご褒美としてきわどい下着姿の自撮り写真を送っておいた。見えるか見えないかの危うさが大好物な男達は明日香の写真に興奮し、今夜はこの写真で自慰をすると報告してくれた男もいた。

(注目されるって気持ちいい)

 承認欲求を満たされた明日香は上機嫌で寝室を出て、隣のリビングに入った。長風呂の柴田はまだ入浴中のようで、浴室からはシャワーの音が聞こえる。

(お風呂一緒に入っちゃおうかな)

 リビングのテーブルに無造作に置かれた手帳が目に入る。柴田の手帳だ。

見るつもりはなかった。無意識に伸びた手が手帳を掴み、5月のスケジュールページをめくった明日香は困惑する。

「……どういうこと?」

 ゴールデンウィークの欄は空白だった。

 5月の他の日付には学会や出張、乗る予定の新幹線の時刻まで細かく書き記されているが、5月3日の日曜日から5月6日水曜日までがすべて空白だった。
そこには大阪の地名も出張の予定も記載されていない。

(ゴールデンウィークは大阪に出張って嘘なの?)

 さらにページをめくったそこには明日香を驚愕させる物が挟んであった。手帳を持つ彼女の手が震えている。

「何よこれ……」

柴田の手帳に挟んであった物は、明日香が嫌いなあの浅丘美月が写る写真だった。
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