早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
早河探偵事務所の室内が赤い光に照らされる。今日の役割を終えて眠りにつく太陽を早河仁は眺めていた。
『なぁ、寺沢莉央はどうして木村隼人を助けたと思う?』
帰り支度をしていた香道なぎさは、早河の疑問の言葉に声を漏らして笑った。あまりにも可笑しそうに笑う彼女を早河はねめつける。
『なんだよ。そんなに変なこと聞いたか?』
「いえいえ。でも理由はそれほど難しいことでもないと思います」
『どういうことだ?』
眉を寄せる早河の隣になぎさは並んだ。窓から差し込む赤い光がなぎさの頬を染める。
「これは私の考えですけど、莉央は木村さんに恋をしたのかも」
『恋って……寺沢莉央が?』
拍子抜けした早河の顔を見て、まったくこの人にはロマンの欠片もないと、彼女は半分呆れて半分笑った。
「莉央も女性ですよ。恋くらいします」
『それはそうだが、寺沢莉央は一応は貴嶋の女だろ?』
「どうなんでしょう。本当の気持ちは莉央にしかわかりません。でも誰を好きでいてもあの子が幸せでいてくれたらいいなぁって……」
釈然としない早河は赤い太陽に照らされたなぎさの横顔を見つめる。彼女は口元を上げて優しい眼差しで夕焼け空を眺めていた。
『お前は恋してるのか?』
「……ええっ! あの、私は別に……」
『顔赤いぞ』
「赤くなってません!」
今度は膨れっ面になるなぎさとは対照的に早河が笑っていた。
事務所の壁にかけたカレンダーは7月のページに変わっていた。一瞬で過ぎ去る永くて短い季節がもう、すぐそこに。
第四章 END
→エピローグに続く
『なぁ、寺沢莉央はどうして木村隼人を助けたと思う?』
帰り支度をしていた香道なぎさは、早河の疑問の言葉に声を漏らして笑った。あまりにも可笑しそうに笑う彼女を早河はねめつける。
『なんだよ。そんなに変なこと聞いたか?』
「いえいえ。でも理由はそれほど難しいことでもないと思います」
『どういうことだ?』
眉を寄せる早河の隣になぎさは並んだ。窓から差し込む赤い光がなぎさの頬を染める。
「これは私の考えですけど、莉央は木村さんに恋をしたのかも」
『恋って……寺沢莉央が?』
拍子抜けした早河の顔を見て、まったくこの人にはロマンの欠片もないと、彼女は半分呆れて半分笑った。
「莉央も女性ですよ。恋くらいします」
『それはそうだが、寺沢莉央は一応は貴嶋の女だろ?』
「どうなんでしょう。本当の気持ちは莉央にしかわかりません。でも誰を好きでいてもあの子が幸せでいてくれたらいいなぁって……」
釈然としない早河は赤い太陽に照らされたなぎさの横顔を見つめる。彼女は口元を上げて優しい眼差しで夕焼け空を眺めていた。
『お前は恋してるのか?』
「……ええっ! あの、私は別に……」
『顔赤いぞ』
「赤くなってません!」
今度は膨れっ面になるなぎさとは対照的に早河が笑っていた。
事務所の壁にかけたカレンダーは7月のページに変わっていた。一瞬で過ぎ去る永くて短い季節がもう、すぐそこに。
第四章 END
→エピローグに続く