婚活難民令嬢の幸せもふもふ家族計画~愛のない結婚で狼皇子の継母になった私のはなし~
 カタルたちが暮らす王宮は執務をすることを考えると便利だが、あまりプライバシーは守られない。人の出入りが多いのだ。
 赤子とクロエの両方を隠しておくには不都合な場所だった。

「引っ越す」

 ちょうど、引っ越しは考えていたことだった。そのための屋敷も買い取っていたのだ。

「クロエが初産で精神的に不安定になったとでも言っておこう」

 こうしてカタルは一晩のうちに引っ越しを終えた。クロエの記憶を改ざんし、産後間もない彼女を捨てたのは、記憶を替えていくあいだにも息子のアッシュを殺そうとしたから。彼女はうわごとのように「こんな子は私の子じゃない」と言っていた。
 カタルは『冷酷悪魔』と呼ばれるようになったのは、その日からだ。

 ◇◆◇

 カタルは頭を押さえた。あまりいい記憶ではない。それをたぐり寄せるのは、想像以上の苦しさだったようだ。

「あの……。アッシュの父親は……」
「おそらく、兄だろう」
「兄……? それって皇帝陛下ってことですか?」
「ああ。目の色がよく似ている。顔つきも、兄の息子の子どものころにそっくりだ」

 人間の姿になって更に似ていると思った。

「陛下は知っているんですか?」
「いいや。もし、クロエと兄に関係があったなんてことになれば、それこそ皇族にとっては大問題だ」

 聞いたところで新しい問題が浮上するだけであることはわかっていた。馬鹿な弟のふりをしておくのが一番だと思ったのだ。妻の不貞にも気づかない馬鹿な弟。

「そうですよね……。私がカタル様の立場でも多分、言えないですもの」

 シャルロッテはぎこちなく笑う。無理矢理笑っているのか、頬は引きつっていた。

「私……」
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