婚活難民令嬢の幸せもふもふ家族計画~愛のない結婚で狼皇子の継母になった私のはなし~
 うまい言葉は見つからなかった。ただ、肩を貸し背中を撫でることだけだ。

(でも、私にできることはもう一つあるよね!)

 シャルロッテは賢者でも英雄でも聖女でもない。ただの、そこらへんの貴族の娘だ。そんなシャルロッテにできることは一つしかない。アッシュの継母としてたくさんの愛情を注ぐこと。
 本当は同じ獣人の血が通っているカタルが父親として、アッシュを導いてくれればいいと思っていた。しかし、それを強要するのは酷だ。
 ならば、父からもらうはずの愛情も母からもらう愛情も、すべてシャルロッテが与えればいいのだ。二人分。いや、シャルロッテ本人の分も会わせて三人分。
 それが、なんの特技もないシャルロッテができる唯一のことだと思った。

(カタル様が安心できるくらい、私がしっかりしよう)

 なによりアッシュが大好きなのだ。シャルロッテの願いはアッシュが毎日笑顔になること。今はそれに尽力を尽くそう。
 シャルロッテは凡人だ。それは自分が一番知っている。今、自分にできることをこなすこと。それが一番の近道だと。

 朝支度を終え、シャルロッテはアッシュの元を訪れた。
 最近では、耳も尻尾もうまく隠せるようになって、自身がついたようだ。それでも、まだ一時間にも満たない。獣人が人間の姿でいつづけるのは、自然の摂理に反した行動なのだろう。
 アッシュはキラキラとした目をシャルロッテに向けた

「これで、パパのところに行ける?」

 パパ。その言葉にズキリと胸が痛む。昨夜のカタルの苦しそうな顔が頭を過った。自分の子として育てると決めた以上、腹を括るのが正解なのかもしれない。しかし、心というのは思い通りには行かないものだ。
 シャルロッテが答えに窮していると、アッシュの青い瞳が不安げに揺れた。

(いけない! 私がしっかりしなくちゃ!)

 シャルロッテはアッシュに目線を合わせるためにしゃがむ。

「うーん、そうだなぁ。三時間はお耳を隠せないとだめかも」
「さん……どれくらい?」
「あの時計の短いはりが三つ動くまでだよ」
「みっつ……」

 アッシュは大きな置き時計を睨みつけるように見上げた。
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