婚活難民令嬢の幸せもふもふ家族計画~愛のない結婚で狼皇子の継母になった私のはなし~
 睨んでいる姿すら可愛い。あまりの可愛さに、シャルロッテが頭を撫で回すと三角耳がひょっこりと顔を出す。

「ああっ! ママ~」
「ごめんごめん。可愛くてつい……」

 アッシュはぴこんと生えた耳を押さえて、シャルロッテを恨めしそうに睨んだ。それすら可愛く見えるのだから重傷だ。
 まだ人間の姿になれていないアッシュは少し気が散ると、こうやって耳が出てしまう。

「アッシュ、あんまり焦らなくていいんだよ」
「うん……。でもね、アッシュ、パパにおはよう言いたい」

 アッシュは三角耳を押さえながら、恥ずかしそうに言った。たったそれだけのために、アッシュは必死に頑張っているのだ。
 シャルロッテは思わずアッシュを抱きしめた。

「一緒に言いに行こうね」
「うん!」

 アッシュの尻尾が左右に嬉しそうに揺れる。シャルロッテは奥歯を噛みしめた。複雑な感情が涙になってあふれそうだったのだ。
 アッシュが見たら困惑するに違いない。だから、シャルロッテは彼にバレないようにギュッと抱きしめ続けた。

 ◇◆◇

 昼下がり、シャルロッテはカタルの執務室の前で、右往左往していた。

(勢いで来ちゃったけど、あとにしたほうがいいよね……。でも……)

 カタルは忙しい。
 そんな彼の仕事を邪魔すべきではないのはわかっている。しかし、アッシュと遊んだあと、どうしても話がしたくてここまで来てしまったのだ。
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