婚活難民令嬢の幸せもふもふ家族計画~愛のない結婚で狼皇子の継母になった私のはなし~
 アッシュの名前を聞いた途端、カタルの表情にかげりが見えた。

「お耳が……。じゃなかった。耳と尻尾が隠せるようになったので、もう少し慣れたら、外の世界を見せてあげたくて」
「……そうだな。ずっとしまっておくわけにもいかない」

 真面目な回答に、シャルロッテは眉尻を下げた。どう返せばいいのだろうか。彼の苦悩を考えると、本邸に連れてくることが正解なのかわからなくなる。
 きっと、アッシュは本邸に来たらカタルに会いたがるだろうから。

「そんな顔をするな」

 カタルは小さくため息を吐いた。

「私のことは気にしなくていい。私の息子として育てると決めた以上、義務を怠っているのは私だ」

 彼は真面目で不器用すぎる。シャルロッテの想像の上をいっていた。「父親としてアッシュを愛さなければならない」そんな義務感と、兄や元妻の裏切りとの葛藤のすべてを自身の中で消化しようとしているに違いない。
 シャルロッテは思わず立ち上がった。

「もし、父親として接するのが難しいなら、まずは叔父として接してはどうでしょう?」
「叔父?」
「はい。無理に父親になろうとしなくていいと思います」

 こんなことを言ったら、母親失格だと怒られてしまうだろうか。しかし、カタルの頬をひっぱたいて「父親らしく振る舞え」と言ったところで、意味はない。他人の心を動かすのは難しいのだ。

「きっと、その気持ちはアッシュに伝わってしまうので……。それだったら、叔父として接したほうが素直にかわいがれるかなって」
< 111 / 131 >

この作品をシェア

pagetop