婚活難民令嬢の幸せもふもふ家族計画~愛のない結婚で狼皇子の継母になった私のはなし~
 オリバーの説明にシャルロッテは頷き、右手を扉に当てた。

(こんな重そうな扉どうや――えっ!? 開いた!?)

「あ、あの。すごく……軽いんですね」
「ええ、ブレスレットしていると軽く感じるようになっています。ブレスレットがないと、重くて開きません」
「なるほど……。魔法って凄いのですね」
「シャルロッテ嬢は魔法を体験したことがありませんか?」
「はい。残念ながら。今回の契約が初めてです」
「では、これからは慣れてください。皇族は魔法の利用が多いですから」

 シャルロッテはオリバーの言葉に曖昧に頷いた。一生掛かっても慣れられそうにない。大きな扉を潜りながら、シャルロッテは何度も右腕に嵌まったブレスレットを眺めた。なんの変哲もない。宝石も嵌まっていなければ、細工もほどこされてはいなかった。

(これが魔法……)

「息子の部屋は二階の奥だ」

 階段を登りながら、カタルが説明を始める。
 なぜだろうか。別邸に入ってから、カタルの表情が今までよりも硬い気がする。これから息子に会うとは思えないほど、厳しい顔つきだった。

「花嫁修業という名目ではあるが、君は息子の相手以外はしなくていい」
「そんな楽しちゃっていいんですか?」
「ああ、他のことは使用人に任せている。君は報告を聞いて『そのように』と頷けばいい」
「公爵夫人ってそんなに楽な仕事なんですね」
「あの扉を開けたら、そうも言っていられなくなるさ」

 カタルはつまらなさそうに言った。
 シャルロッテは意味がわからず、首を傾げる。含みを持たせた言い方だ。

「どういう意味ですか?」

 カタルは難しい顔をしたまま答えない。代わりにオリバーが愛想笑いを浮かべ、カタルとシャルロッテのあいだに割り込んだ。

「百聞は一見にしかず。アッシュを紹介しましょう」

 部屋の扉を開く。
 陽当たりのいい広い部屋だ。大きなベッドと、子ども用の玩具が並ぶ。しかし、子どもの姿は見当たらなかった。
 シャルロッテは首を傾げ、辺りを見回す。
 何も見つからない。
 その代わりに、「ううう……」というような、小さな唸り声が聞こえた。

(唸り……声?)

 それは犬のような鳴き声だ。シャルロッテは声のするほうに目をやる。部屋の端、カーテンの隙間に隠れた子犬がこちらを睨んで唸り声を上げる姿が見えた。

「子犬……!?」

 シャルロッテは目を輝かせて、思わず大きな声を出した。
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