婚活難民令嬢の幸せもふもふ家族計画~愛のない結婚で狼皇子の継母になった私のはなし~
(どうしてこんなところに子犬が!?)

 シャルロッテは驚きと同時に、気持ちが高揚していた。
 もしかして、カタルのサプライズだろうか。成功報酬というのは嘘で、シャルロッテのために子犬を用意していた。

(カタル様が私のために……。いや、そんなことをする理由はないし……)

 やはり意味がわからない。シャルロッテには高貴な人間の考えることなどわからなかった。
 助けを求めるようにカタルを見上げる。
 彼は難しい顔で子犬を見つめていた。

「あれが息子のアッシュだ」
「……へ?」

(息子って。子犬が? これってジョーク? ここは笑ったほうがいいのかしら?)

 しかし、笑い飛ばしていい雰囲気ではない。きわめて真面目な空気感に、シャルロッテの頬はピクリとも動かなかった。

「カタルの代わりに私が説明させていただいても?」
「もちろんです。お願いします」

 オリバーが救世主のように笑みを浮かべる。眼鏡の奥の笑みが慈愛に満ちているように感じたのは、初めてだった。
 オリバーは小さく咳払いをする。

「実はですね。私たち皇族は狼獣人の末裔なのです」
「狼……獣人?」

 シャルロッテは間抜けにも、オウムのように同じ言葉を繰り返すことしかできなかった。

(獣人って、あの獣人?)

 海の向こう側に住む獰猛な生き物。彼らは人間より力が強く、人を奴隷としていたという。その、獣人のことだろうか。
 しかし。この帝国には獣人はいない。
 いないはずだ。

「つ、まり……。カタル様もオリバー様も狼獣人の末裔で、あの子犬がカタル様の息子のアッシュ君で間違いないと……?」
「犬ではなくて狼だ」

 シャルロッテの問いに、カタルが短く答える。この際、狼か犬かというところはどうでもいい。重要なのはそこではないのだ。
 オリバーは困ったように頭を掻いた。

「難しい説明はおいおいゆっくりと致しましょう。これで、魔法契約を使用した意図がおわかりいただけましたか?」
「ああ、つまりつまり、狼獣人の血が流れていることが、皇族の大きな秘密ということですか?」
「よくできました。そのとおりです。私たちには狼獣人の血が流れています」
「なるほど……。では、お二人も狼の姿に?」
「なることも可能ですよ。ですが、基本は人間の姿で生活します」
「そうですよね」

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