婚活難民令嬢の幸せもふもふ家族計画~愛のない結婚で狼皇子の継母になった私のはなし~
 ゆっくりと落ち着いた声で話し掛ける。しかし、アッシュは唸るばかりだ。

「簡単に仲よくはなれないよね。少しずつ仲良くなろう」

◇◆◇

 あれから数日、シャルロッテは毎日アッシュの元へと通った。
 彼は相変わらず部屋の隅、カーテンの裏に隠れ唸っている。

(まずは私に慣れてもらわないと! 目標は撫でさせてもらうことよ!)

 ほわほわの毛。白に近いグレーの毛は、見るからに触り心地がよさそうだった。頭から背中に掛けて撫でたらどんなに幸せだろうか。
 毎日、妄想してはその手触りに思いを馳せている。
 撫でたい。無理矢理にでも撫でたい。しかし、それは人として、継母としてやってはいけないことだ。

(ああ……! 唸る姿も可愛い! 可哀想だけど、すごく可愛い……! 今すぐ抱きしめたい!)

 抱きしめて「大丈夫よ」と撫でたい。しかし、それで嫌われたら元も子もなかった。

(どうやったら警戒心を取ってもらえるんんだろう?)

 オリバーはアッシュが人一倍警戒心が強いと言っていた。それは生まれてすぐに母親と離れたことが原因だと考えているようだ。なら、なぜ母親からアッシュを奪ったのか。聞きたかったが、聞くことはできなかった。
 何かしらの理由があるのだろう。そんな事情をすべて背負うことは今のシャルロッテにはできない。
 だから、シャルロッテにできることをしようと思った。

(私にできることは、とにかくアッシュと向き合うことよね)

 少しずつ滞在時間を延ばして、シャルロッテがこの部屋にいることを普通にしようと頑張っているところだ。シャルロッテは壁に掛かっている時計を見上げた。

(あ、夕食の時間だわ)

 夕食の時間、シャルロッテはカタルに報告をするようにしている。カタルと会えるのは朝食と夕食の時間だけだ。だから、この時間は死守しなければならない。

「アッシュ、今日はもう帰るね。アッシュもちゃんとご飯を食べるのよ」

 シャルロッテはアッシュに用意した食事を指し示し、部屋を後にした。
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