婚活難民令嬢の幸せもふもふ家族計画~愛のない結婚で狼皇子の継母になった私のはなし~
 それは、まだ帝国ができる前のお話です。
 か弱い人間たちは、悪い獣人たちにいじめられていました。
 ある一人の人間を愛していた一匹の狼は、その人間を助けたい、守りたいと考えたのです。
 狼は愛する人間に言いました。

『ここから一緒に逃げよう』

 しかし、愛する人間は、首を横に振ります。

『仲間を見捨てては行けない』

 それでも愛する人間を助けたかった狼は、魔法使いと協力し、多くの人間たちを連れて海を渡ったのです。
 そして、狼は人間の国を作りました。
 けれど、人間たちは狼を怖がりました。なぜなら、人間たちをずっといじめてきた獣人と同じ姿をしていたからです。
 狼は悩みました。

『どうして自分は人間ではないのだろう?』

 狼は考え、魔法使いに頼みました。

『どうか、私を人間にしてほしい。そして、みんなの記憶から私が狼であることを消してほしい』

 魔法使いはその願いを叶え、狼に人間の姿になる力を与えました。そして、魔法使いは人間たちから狼の記憶を消したのです。
 人間の姿になった狼は、人間の国で王様になりました。狼は人間たちに『海の外にいる獣人たちはおそろしい』と教えて聞かせたのです。
 いつまでのこの人間の国が幸せであるために。
 こうして、狼は人間の姿で、人間たちと末永く暮らしました。


 シャルロッテは本を閉じてうなだれた。
 胸がいたい。
 これはニカーナ帝国の成り立ちであり、皇族の祖先の想いが詰まっている。

(この童話の中に書いてあることがすべてではないのだろうけど……)

 しかし、これが真実なのだろう。
 シャルロッテの知っているニカーナ帝国の成り立ちは、獣人たちから逃れ人間は海を渡ったということだけ。
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