婚活難民令嬢の幸せもふもふ家族計画~愛のない結婚で狼皇子の継母になった私のはなし~
 アッシュの横顔は今にも泣きだしそうで、居ても立ってもいられなかった。
 すぐにでも抱きしめたい。
 しかし、シャルロッテが走り出す前に、オリバーが床に膝をついてアッシュに目線を合わせる。そして、口を開いた。

「アッシュ、耳と尻尾を隠せるようになっても、私たちは人間にはなれないんだ」
「やだ! ママといっしょがいい!」

 アッシュの叫び声に胸が締めつけられた。
 彼の青い瞳に涙がたまっていく。本を読んだあとだからだろうか、彼の気持ち手に取るようにわかる。今のアッシュにとって、シャルロッテだけが唯一頼れる人間なのだろう。
 そのシャルロッテと自分が違う存在だということが不安なのだ。

「そんなのだめ!」

 シャルロッテは思わず叫んだ。隠れていたことも忘れて、部屋の中に入ってアッシュを抱きしめる。
 きっとこれから、アッシュは何度も葛藤することになるのだろう。
 この世界の常識を知ったとき、別邸という小さな世界から出たとき、愛する人ができたとき。何度も、何度も狼であることに葛藤し、それを受け入れなければならない。

「ママはアッシュのお耳も尻尾も大好きだから、いらないなんて言わないで!」
「ママ……?」

 シャルロッテが今、できることはたかが知れている。ただ抱きしめること。そして、狼の血が流れるアッシュの存在を認めることだけ。
 シャルロッテはハンカチでアッシュの涙を拭う。そして、頭を、耳を撫でた。
 やはり、このもふもふとした手触りが最高だ。どうして嫌いになれるだろうか。

「みんな一緒じゃなくていいと思うの。ママはどんなアッシュも好きだよ。アッシュはママが違うからきらい?」

 アッシュは慌てて頭を横に振った。

「ママもアッシュが好きだよ。このお耳も、もふもふの尻尾も。狼の姿も大好き」
< 75 / 131 >

この作品をシェア

pagetop