婚活難民令嬢の幸せもふもふ家族計画~愛のない結婚で狼皇子の継母になった私のはなし~
 次の日、シャルロッテとカタルは二人で馬車に乗った。シャルロッテは馭者に行先を告げ、商業地区へと向かう。

(馬車に乗るのは久しぶり)

 揺れに合わせて左右に振られる。向かいに座るカタルは何でもない顔をしていた。こうやって二人で馬車に乗るのは、アロンソ邸に来た時以来だ。
 ずっと彼の顔を眺めていたら、何か言われかねないと思いシャルロッテは窓の外に目をやった。
 変化していく街並み。アロンソ邸は王都の中心部にある。皇族、しかも皇帝の弟という身分なのだから、城の近くに屋敷を構えるのは普通のことだろう。
 綺麗な屋敷を通り過ぎる。それだけでわくわくした。

「アッシュが見たら感動しちゃいますね!」

 シャルロッテはカタルに声を掛ける。窓にへばりつくアッシュの姿は容易に想像できた。カタルはちらりと窓の外を見て、「どうだろうな」と呟く。

「ずっと狭い部屋にいるんです。絶対興奮しますよ」
「君は息子のことになると我を忘れるようだ」
「あんなにかわいい子を前にしたら、誰だって我を忘れますって」

 アッシュはかわいい。誰が見てもそう思うだろう。素直で優しく愛らしいのだ。カタルはアッシュとあまり関わってこなかったから、その愛らしさがわかっていないのだろう。
 狼になったときのふわふわとした毛。全身で愛情を示してくれるのだ。青い瞳はキラキラと輝いている。

(そういえば、カタル様の瞳は黄金なのよね)

 あの青の瞳は母親ゆずりだろうか。黄金の瞳も綺麗だ。なかなかこの色の瞳はお目にかかれない。シャルロッテは誘惑に負けてカタルの瞳をまじまじと見つめた。

「君はこわくないのか?」
「こわい?」

 不意な質問に、シャルロッテはオウムのように繰り返しながら首を傾げた。
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