婚活難民令嬢の幸せもふもふ家族計画~愛のない結婚で狼皇子の継母になった私のはなし~
 人間は簡単に痛みを忘れる。自分で負っていない痛みなら尚更だ。

「君は本当に変わっているな」
「そうですか?」

 カタルは窓の外を見ながら小さな声で「ああ」と言った。彼はそれ以上何も言わない。シャルロッテも何も言わず、彼と同じように街並みを見た。




 屋敷に着いてすぐ、シャルロッテは別邸へと向かった。シャルロッテのドレスはこれから制作に入るため、荷物はアッシュの分しかない。

「カタル様も荷物を運ぶのを手伝ってください!」

 シャルロッテがそう言うと、彼は渋々両手に荷物を抱えてシャルロッテの後をついて来た。別邸に入れるのはシャルロッテとカタル、そしてオリバーだけだ。
 もし、カタルが断った場合、シャルロッテが荷物を持って何度も往復することになる。彼はそれを理解して手伝ってくれる気になったのだろう。
 もしかしたら、アッシュと関わる理由が欲しかったのかもしれない。こればかりは、真相は闇の中ではあるが。
 本邸と別邸を隔てる大きな扉を開けると、アッシュがシャルロッテの足に飛びついた。

「ママッ!」

 完璧な人間の姿になっている。
 シャルロッテは荷物を置いて、床に膝をついてアッシュに目線を合わせた。

「あれ!? 私の大好きなお耳がないわ!」

 シャルロッテは目を見開き大袈裟に驚いて見せた。アッシュは少し恥ずかしそうに「えへへ」と笑うのだ。

「すごいね。お耳、隠せるようになったの?」
「うんっ!」

 アッシュは嬉しそうに三角耳があった部分を撫でる。

「一所懸命頑張ったんだね」
「うんっ! ママとおそろい」
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