婚活難民令嬢の幸せもふもふ家族計画~愛のない結婚で狼皇子の継母になった私のはなし~
 カタルは何も言わないまま、動かない。こんなカタルを見るのは初めてだった。シャルロッテは立ち上がると、そっとカタルに耳打ちする。

「こういうときは、頭を撫でてあげるんですよ」

 もう三年も父親をしているというのに、こんなこともわからないのか。ため息が出そうだ。カタルは、ぎこちない手つきで、アッシュの頭を撫でた。
 アッシュは嬉しかったのか、狼の姿に戻ってしまった。

「アッシュったら、相当嬉しいみたいです」
「……どうしてわかる?」
「え? 嬉しそうじゃないですか?」

 尻尾が嬉しいと主張しているし、顔も緩んでいるではないか。シャルロッテは狼を抱き上げる。やはり、この姿のアッシュは最高だ。人間の姿のアッシュも可愛らしくて大好きだが、この手触り。カタルがいなければ、アッシュのお腹に顔を押しつけていたに違いない。

「そうだった! 私ね、狼のアッシュにもお土産を買ってきたのよ!」
「キャンッ」

 アッシュが嬉しそうに鳴く。
 一度アッシュを床に下ろすと、荷物の中から一枚のスカーフを取り出した。黄金の装飾がお洒落な白のスカーフだ。それを、アッシュの首に巻きつける。

「ほら! とっても似合う!」
「キャンッ」

 嬉しそうに鳴くと、アッシュはシャルロッテとカタルの周りをグルグルと回った。尻尾は揺れている。
 相当気に入ってくれたようだ。
 シャルロッテはカタルがいることも忘れて、アッシュとじゃれ合った。
 腹を見せるアッシュの腹を思う存分撫で回す。何度触っても、もふもふでふわふわで最高の触り心地だ。
 狼というより子犬のようで、愛らしい。図鑑で見る狼は、もっと大きく強そうな成りをしていた。大きくなったら強くかっこよくなるのだろうか。

(カタル様もこんなに可愛い……わけないか)

 本物の大人の狼は見たことない。
 どれくらい大きいのだろうか。想像もつかなかった。思わずカタルを見上げると、彼は難しい顔でシャルロッテとアッシュを見下ろしていた。

「カタル様? どうしました?」
「いや、なんでもない」

(なんでもないって顔じゃないけど……)

 どう見ても「思いつめています」と言いたそうな表情だ。シャルロッテはアッシュから手を離し、カタルの顔を覗き見る。

「もしかして、体調が悪いですか? お医者様を呼びましょうか?」
「必要ない」
「キュゥン……」
「ほら! アッシュも心配してますよ!」
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