婚活難民令嬢の幸せもふもふ家族計画~愛のない結婚で狼皇子の継母になった私のはなし~
 アッシュはカタルの足元に立つと、心配そうにカタルを見上げた。カタルは眉根を寄せたままだ。
 しばらくのあいだ押し黙っていたカタルが、ゆっくりと口を開いた。

「……こんなところでじゃれてないで、荷物を部屋に運ぶぞ」
「ああ! そうでした」

 シャルロッテは慌てて荷物を持ち上げる。三人は別邸と本邸を隔てる扉の前にずっと居たのだ。
 最近のアッシュは活発で別邸の色々な場所を行き来している。アッシュが出入りしても大丈夫な部屋はすべて扉を開け放ち、危ない物が置かれている部屋には鍵をしめてある。
 だから、こうやって別邸と本邸を隔てる扉の前でシャルロッテを迎えることがあるのだ。

「アッシュ、お部屋で他の洋服も見よう! アッシュのためにたくさんお洋服選んできたんだよ~」
「キャンッ」

 アッシュは元気に鳴くと、シャルロッテとカタルを先導して歩いた。飛ぶように階段を駆け上がり、シャルロッテとカタルに向かって吠える。「早く!」と言っているようでかわいらしい。
 シャルロッテとカタルは荷物をたくさんの荷物を抱えてアッシュを追った。
 アッシュの部屋で箱からたくさんの服を取り出す。どれも子ども用のかわいらしい服だ。
 尻尾がでない形の服だから、これからたくさん活躍するだろう。

「この服はね、ボタンが可愛いの」

 シャルロッテが一着一着広げながら、説明するのをアッシュは耳を立てて真剣に聞く。尻尾がぶんぶんと左右に揺れる。
 カタルは扉の側でただジッと立ったままだった。
 何か言うわけでもない。

(やっぱりさっきから様子が変)

 ちらりとカタルの様子を見る。アッシュも気になるようで、何度もカタルに視線を送っていた。しかし、彼は気づいていないのか、視線を二人に向けながらも、何も言わない。
 シャルロッテとアッシュは顔を見合わせ、首を傾げた。
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