婚活難民令嬢の幸せもふもふ家族計画~愛のない結婚で狼皇子の継母になった私のはなし~
 シャルロッテは不思議そうに目を瞬かせた。彼女にはわからないのだろう。彼女が来るまでの三年間がカタルにとってもアッシュにとっても地獄のような日々だったことを。
 しかし、申し訳なくもなるのだ。
 彼女は変った趣味を持っているが、普通の幸せを手に入れることができる人間だ。見合いが二十回失敗していたとしても、二十一回目は成功していたかもしれない。
 求婚前に世間での評判を調べたことがあった。動物好きの『変人令嬢』という噂はもちろんだが、「それさえなければ結婚したかった」という男がそれなりにいたのだ。
 珍しいストロベリーブロンドの髪と大きなエメラルドグリーンの瞳。笑うと花が咲いたように周りが華やぐ。
 アロンソ邸の使用人の中にも彼女のファンは多かった。
 彼女であれば、変った趣味を理解してくれる夫を見つけ出せただろう。
 彼女はカタルに満面の笑みを見せた。

「私こそ感謝しないと! 私、今すごく幸せなんです。あんなに可愛い子のママになれるなんて!」

 シャルロッテは恥ずかしそうに「まだ正確にはママではないですけど」と言って笑う。しかし、その笑顔が幸せそうで、カタルは救われたような気持ちになる。皇族の面倒ごとに巻き込んだ罪は消えないが、彼女が幸せなのが救いだ。

「ずっと聞きたかったことがあるんですけど……」
「なんだ?」

 シャルロッテは辺りを見回したあと、カタルの耳元で囁くように聞いた。

「大人になると、狼にはならないのですか?」

 カタルは思わず笑った。
 シャルロッテなりの気遣いなのだろう。他の人間に聞かれないように。

「安心しろ。周りには誰もいない」
「そんなこともわかるんですか?」
「まあな」
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