婚活難民令嬢の幸せもふもふ家族計画~愛のない結婚で狼皇子の継母になった私のはなし~
 狼獣人は耳と鼻が人間よりもいいようだ。人の足音や気配、匂いで近くに誰がいるのか認識できた。シャルロッテはこわがるどころか「すごいですね!」と目を輝かせている。
 普通ならば、「こわい」だとか、「気持ち悪い」と感じるはずなのだが、彼女は違うようだ。

「皇族は子どものころから、厳しく教育される。本当の姿は母親にも見せてはならないと」
「では子育てはどうやっていたんですか?」
「皇族の女性が担うことが多い。あとは、母親に精神干渉の魔法を使う」
「なるほど……」

 シャルロッテは曖昧に頷いた。
 想像がつかないのだろう。狼の姿をした子どもを受けいれられる人間はいない。狼の姿を見ても人間の子どもだと感じるように魔法を使う。
 カタルはその魔法が嫌いだった。母親はほとんど子どものころのカタルを覚えていなかったからだ。

「長く精神干渉の魔法をかけ続けるのはよくない。だから、子どものころはほとんど母親には会えなかった」
「ちょっとさみしいですね」
「私も昔は母にたくさん会いたくて、必死に練習をしたものだ」

 シャルロッテは困ったように眉尻を落とす。

「そんな顔をするな。皇族に生まれた以上、耐えなければならない試練だ」
「そうは言っても、寂しいじゃないですか」

 シャルロッテはドレスをギュッと握った。スカートに皺が寄る。彼女に三角の耳があったのであれば、垂れていただろう。

(もっと早く君を見つけていれば、君が抱く子を一緒に愛せたかもしれないな……)

 カタルはアッシュを抱き上げ、幸せそうに笑うシャルロッテを思い出した。
 狼の姿も、人間の姿もすべてを愛し、優しく包み込む女性をカタルは知らない。そんなものは同じ皇族にしかいないと思っていた。
 もし、アッシュがシャルロッテとのあいだに生まれた子だったら――……そこまで考えて、カタルは慌てて頭を横に振った。
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