旦那様、不倫は契約違反です。我慢の限界ですので覚悟なさいませ。
不倫は契約違反です
私メアリーは今日まで三年間、ラングトリー公爵夫人としての役目を果たしてきました。
趣味で始めたブティック経営との両立は大変でしたが、我ながら充実した日々を過ごせたと思います。
ですが、もうすぐ公爵夫人ではなくなりそうです。
今まさに旦那様の不倫を問い詰めて、離婚しようとしているのですから。
「はぁ……メアリー、たかが一度の過ちじゃないか。これくらい水に流せよ。頭の固い女は嫌われるぞ」
ブティック内の事務室で我が物顔でソファーに座っているのが、私の旦那様です。
長いため息を吐きながら面倒くさそうに私に言い放つ姿は、旦那様というよりクレーム客のようですね。
「こんなところに呼び出すだなんて、大袈裟な奴だ。俺は暇じゃないんだぞ!」
かなり苛立っておいでです。
本来なら今日も女性と会う約束をしていたのですから、無理もないでしょう。
「そうですね。過ちは誰にでもあるもの……一度の過ちならば、水に流しましょう」
「そうか、じゃあこの話はおしまいだな」
いそいそとソファーから立ち上がる旦那様を目で制して、私は紅茶を一口味わいました。
ゆっくり話すのなんて、何年ぶりでしょうか。
せっかくですので、この機会を楽しむべきでしょう?
あぁ、そうそう、私は旦那様に教えなければならないことがありました。
「旦那様、一度ではなく十三度目でございます。水に流し過ぎて、私の頭はゼリーのように柔らかくなってしまいましてよ?」
結婚して三年も経てば、このくらいの人数になるのでしょうか?
私は不倫をしたことがないから分かりませんけれど。
「な……お前、気づいていたのか? どうして……」
旦那様、バレたのは今回の不倫だけだと思っていたようですね。
違いますよ。過去十二人との過ちもすべて把握済みです。
こんなにも隠す気がない不倫でしたのに、今までバレていないと思っていた方が驚きです。
結婚当初から、底の浅い人だと思っていましたが、想像以上でした。
旦那様であるノーマン・ラングトリー公爵と私は、三年前に政略結婚をいたしました。
碌でもない人だとは知りつつも、仕事は出来る方なのだから……と政略結婚を了承したのです。
貴族にはよくあること。これくらいは我慢しなければ、と思っていました。
まあ実際、仕事は部下の一人が優秀なだけで御本人は全く無能だったのですから、笑えません。
そうそう、結婚する時、彼は私に向かってこう言い放ったのです。
「君は自由に過ごすと良い。その代わり、俺も好きにさせてもらう。お互いその方が良いだろう?……あぁ、跡継ぎだけは産まなくてはならないから、そこだけは頼むよ」
この条件は私としても好都合でした。おかげでブティック経営を自由に行えたのですから。
ただ貴族というのは世間体を大切にしますので、ある約束だけは取りつけました。
「でしたら旦那様、お互い相手に迷惑をかけないようにしましょう。相手の評判を下げる行為や、不利益をもたらすような行為は禁止としましょう」
「そうだな、それで構わない」
「では契約書を作成しておきましょう。……念のために」
こうして結婚する際に、契約書を作成したのです。
この当時、旦那様がどう自由に過ごすのか分かりませんでしたので、私の本能が万が一に備えようとしたのでしょうか。
まさかこれが役に立つ時が来るなんて……来てほしくはなかったですけれど。
過去の自分に感謝の気持ちでいっぱいです。とても素晴らしい判断でした。
さて、旦那様にはこれからどんな償いをしてもらいましょうか。
旦那様の態度次第では、少しは手を緩めても良いかと思いますが……。
「……おい、メアリー聞いているのか? もうしないから、これからも上手くやっていこうじゃないか! まだ跡継ぎだって産まれていないのに、仲違いすると両親も心配するだろう?」
あらあら旦那様、まだ私との将来を考えていらっしゃるのね。
もう、将来なんてありませんのに……。
私、我慢の限界ですの。
「旦那様、これは契約違反です。私が被った損害をしっかり賠償していただきましょう」
さて旦那様、覚悟なさいませ。
趣味で始めたブティック経営との両立は大変でしたが、我ながら充実した日々を過ごせたと思います。
ですが、もうすぐ公爵夫人ではなくなりそうです。
今まさに旦那様の不倫を問い詰めて、離婚しようとしているのですから。
「はぁ……メアリー、たかが一度の過ちじゃないか。これくらい水に流せよ。頭の固い女は嫌われるぞ」
ブティック内の事務室で我が物顔でソファーに座っているのが、私の旦那様です。
長いため息を吐きながら面倒くさそうに私に言い放つ姿は、旦那様というよりクレーム客のようですね。
「こんなところに呼び出すだなんて、大袈裟な奴だ。俺は暇じゃないんだぞ!」
かなり苛立っておいでです。
本来なら今日も女性と会う約束をしていたのですから、無理もないでしょう。
「そうですね。過ちは誰にでもあるもの……一度の過ちならば、水に流しましょう」
「そうか、じゃあこの話はおしまいだな」
いそいそとソファーから立ち上がる旦那様を目で制して、私は紅茶を一口味わいました。
ゆっくり話すのなんて、何年ぶりでしょうか。
せっかくですので、この機会を楽しむべきでしょう?
あぁ、そうそう、私は旦那様に教えなければならないことがありました。
「旦那様、一度ではなく十三度目でございます。水に流し過ぎて、私の頭はゼリーのように柔らかくなってしまいましてよ?」
結婚して三年も経てば、このくらいの人数になるのでしょうか?
私は不倫をしたことがないから分かりませんけれど。
「な……お前、気づいていたのか? どうして……」
旦那様、バレたのは今回の不倫だけだと思っていたようですね。
違いますよ。過去十二人との過ちもすべて把握済みです。
こんなにも隠す気がない不倫でしたのに、今までバレていないと思っていた方が驚きです。
結婚当初から、底の浅い人だと思っていましたが、想像以上でした。
旦那様であるノーマン・ラングトリー公爵と私は、三年前に政略結婚をいたしました。
碌でもない人だとは知りつつも、仕事は出来る方なのだから……と政略結婚を了承したのです。
貴族にはよくあること。これくらいは我慢しなければ、と思っていました。
まあ実際、仕事は部下の一人が優秀なだけで御本人は全く無能だったのですから、笑えません。
そうそう、結婚する時、彼は私に向かってこう言い放ったのです。
「君は自由に過ごすと良い。その代わり、俺も好きにさせてもらう。お互いその方が良いだろう?……あぁ、跡継ぎだけは産まなくてはならないから、そこだけは頼むよ」
この条件は私としても好都合でした。おかげでブティック経営を自由に行えたのですから。
ただ貴族というのは世間体を大切にしますので、ある約束だけは取りつけました。
「でしたら旦那様、お互い相手に迷惑をかけないようにしましょう。相手の評判を下げる行為や、不利益をもたらすような行為は禁止としましょう」
「そうだな、それで構わない」
「では契約書を作成しておきましょう。……念のために」
こうして結婚する際に、契約書を作成したのです。
この当時、旦那様がどう自由に過ごすのか分かりませんでしたので、私の本能が万が一に備えようとしたのでしょうか。
まさかこれが役に立つ時が来るなんて……来てほしくはなかったですけれど。
過去の自分に感謝の気持ちでいっぱいです。とても素晴らしい判断でした。
さて、旦那様にはこれからどんな償いをしてもらいましょうか。
旦那様の態度次第では、少しは手を緩めても良いかと思いますが……。
「……おい、メアリー聞いているのか? もうしないから、これからも上手くやっていこうじゃないか! まだ跡継ぎだって産まれていないのに、仲違いすると両親も心配するだろう?」
あらあら旦那様、まだ私との将来を考えていらっしゃるのね。
もう、将来なんてありませんのに……。
私、我慢の限界ですの。
「旦那様、これは契約違反です。私が被った損害をしっかり賠償していただきましょう」
さて旦那様、覚悟なさいませ。
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