旦那様、不倫は契約違反です。我慢の限界ですので覚悟なさいませ。
ハロルドの気持ち ※ハロルド視点
―領地が落ち着いた頃のお話(ハロルド視点)―
ノーマン・ラングトリーの爵位が剥奪されてから数ヶ月、領地は公爵不在のままながらも平穏を取り戻していた。
先代公爵から公爵代理の地位を授かっていたおかげで、領地運営に不便はなかった。
「ハロルド、少し休憩しませんか?」
メアリー様はもう公爵夫人ではないが、領地の所有者として仕事に励んでくれている。
僕が長時間集中していると、こうして休憩を促してくれるので大変ありがたい。
「そうですね。きりも良いですし、少し休みます」
メアリー様の淹れてくれたお茶を飲みながら、ふと彼女と会った頃を思い出した。
初めて出会ったのも、仕事の最中だったな――
「あ、あの旦那様は……? 貴方はどなたでしょう?」
あれは予算申請の期日直前で、脳内が修羅場と化していた時だった。
恐る恐るといった様子で僕に話しかけてきたのが、メアリー様だった。
ノーマン様のことを旦那様と呼んではいたものの、洋服や佇まいから夫人だとすぐに分かった。
ノーマン様の仕事を心配して手伝おうとする彼女に、随分と嫌味な態度をとった気がする。
不倫について話したのも、仕事を押し付けられていたことに対する腹いせのつもりだった。
それなのに、メアリー様は僕の予想をはるかに超える提案をしてきた。
「旦那様に制裁を加えましょう。いかがですか? 協力していただけますか?」
ノーマン様に制裁を加える、という彼女の言葉が気になって、興味本位で協力することにした。
最初は面白半分だったのだ。
成功しても失敗しても面白いものが見られそうだ、と。
僕の予想に反して彼女の働きは凄まじく、不倫のことだけでなく僕の待遇を改善するためにも尽力してくれた。
彼女がいなければ、僕は今でも不満を燻ぶらせたままノーマン・ラングトリー公爵の下で働いていただろう。
彼女が僕を自由にしてくれたのだ。
だから、今度は僕が彼女に尽くす番だ。
「メアリー様、最近僕の仕事を手伝ってばかりいますが、ブティックの方はよろしいのでしょうか?」
「あまり新規の注文を入れないようにしていますから、そんなに忙しくないのです。今は領地の立て直しというか、領民の皆さんに安心してもらうのが最優先ですからね」
本当はブティック経営がしたいだろうに、彼女はそんな素振りを見せなかった。
「もうだいぶ落ち着いてきましたから、そろそろ本業の方に力を注いでいただいても大丈夫ですよ。ブティックにも待っているお客様が大勢いると聞きましたよ」
「本当ですか? では、来週から少しずつブティックの方の仕事を増やしますね。実は今、西の方で流行っているアクセサリーがありまして、仕入れてみたいと思っていましたの!」
僕の言葉に嬉しさを隠しきれない様子で笑うメアリー様は、なんとも可愛らしいと思う。
少し前まで悲しげな表情が多かったのに、最近ではこうして明るい表情を見せてくれる。
「今までこちらの仕事を手伝っていただいたのですから、今度は僕がブティックの仕事を手伝いますよ。商品のことは分かりませんが、経理や力仕事なら多少お役に立てるかと思います」
「ありがとうございます。ハロルドが手伝ってくれるのなら心強いですわ!」
「必要な時はいつでも声をかけてください」
今よりも近い距離でお役に立ちたいと思うのは、今までのご恩に対する単なる忠誠心だろうか?
それとも――
ノーマン・ラングトリーの爵位が剥奪されてから数ヶ月、領地は公爵不在のままながらも平穏を取り戻していた。
先代公爵から公爵代理の地位を授かっていたおかげで、領地運営に不便はなかった。
「ハロルド、少し休憩しませんか?」
メアリー様はもう公爵夫人ではないが、領地の所有者として仕事に励んでくれている。
僕が長時間集中していると、こうして休憩を促してくれるので大変ありがたい。
「そうですね。きりも良いですし、少し休みます」
メアリー様の淹れてくれたお茶を飲みながら、ふと彼女と会った頃を思い出した。
初めて出会ったのも、仕事の最中だったな――
「あ、あの旦那様は……? 貴方はどなたでしょう?」
あれは予算申請の期日直前で、脳内が修羅場と化していた時だった。
恐る恐るといった様子で僕に話しかけてきたのが、メアリー様だった。
ノーマン様のことを旦那様と呼んではいたものの、洋服や佇まいから夫人だとすぐに分かった。
ノーマン様の仕事を心配して手伝おうとする彼女に、随分と嫌味な態度をとった気がする。
不倫について話したのも、仕事を押し付けられていたことに対する腹いせのつもりだった。
それなのに、メアリー様は僕の予想をはるかに超える提案をしてきた。
「旦那様に制裁を加えましょう。いかがですか? 協力していただけますか?」
ノーマン様に制裁を加える、という彼女の言葉が気になって、興味本位で協力することにした。
最初は面白半分だったのだ。
成功しても失敗しても面白いものが見られそうだ、と。
僕の予想に反して彼女の働きは凄まじく、不倫のことだけでなく僕の待遇を改善するためにも尽力してくれた。
彼女がいなければ、僕は今でも不満を燻ぶらせたままノーマン・ラングトリー公爵の下で働いていただろう。
彼女が僕を自由にしてくれたのだ。
だから、今度は僕が彼女に尽くす番だ。
「メアリー様、最近僕の仕事を手伝ってばかりいますが、ブティックの方はよろしいのでしょうか?」
「あまり新規の注文を入れないようにしていますから、そんなに忙しくないのです。今は領地の立て直しというか、領民の皆さんに安心してもらうのが最優先ですからね」
本当はブティック経営がしたいだろうに、彼女はそんな素振りを見せなかった。
「もうだいぶ落ち着いてきましたから、そろそろ本業の方に力を注いでいただいても大丈夫ですよ。ブティックにも待っているお客様が大勢いると聞きましたよ」
「本当ですか? では、来週から少しずつブティックの方の仕事を増やしますね。実は今、西の方で流行っているアクセサリーがありまして、仕入れてみたいと思っていましたの!」
僕の言葉に嬉しさを隠しきれない様子で笑うメアリー様は、なんとも可愛らしいと思う。
少し前まで悲しげな表情が多かったのに、最近ではこうして明るい表情を見せてくれる。
「今までこちらの仕事を手伝っていただいたのですから、今度は僕がブティックの仕事を手伝いますよ。商品のことは分かりませんが、経理や力仕事なら多少お役に立てるかと思います」
「ありがとうございます。ハロルドが手伝ってくれるのなら心強いですわ!」
「必要な時はいつでも声をかけてください」
今よりも近い距離でお役に立ちたいと思うのは、今までのご恩に対する単なる忠誠心だろうか?
それとも――