旦那様、不倫は契約違反です。我慢の限界ですので覚悟なさいませ。
幸福はここにありました
ハロルドが陞爵すると知った数週間後、彼はついに伯爵の爵位を授かりました。
領民からも祝福されて、良い領主になりそうです。
あとはハロルドに領地の所有権を渡せば、私の役目はお終いです。
あとは寡婦として余生を楽しむことにしましょう。
あのように派手な離婚劇をした以上、再婚なんて出来ないでしょうし……。
もちろんしたい気持ちもありません。
もう結婚は恐ろしいですから。
「これで領地も安泰です。伯爵領にしては大きいかもしれませんが、ハロルドなら大丈夫ですよ」
そう言って領地の譲渡証明書を渡したのですが、ハロルドはなかなか受け取ろうとしません。
「どうしたのですか? 受け取ってくださいな。これでこの領地は正式にあなたの物ですよ」
そう言っているのに、全然受け取ってくれません。
差し出してる手が痛くなってきました。
「ハロルド?」
ハロルドは何かを決意した表情で、私の手を優しく押し返しました。
「領地はメアリー様が所有していてくれませんか? というより……僕と一緒に所有してくれませんか?」
「え? それってどういう……」
「つまり、結婚しませんか? ってことです。好きです、メアリー様。公爵よりは身分は低くなってしまいますが、公爵夫人だった頃よりも幸せにします。いかがでしょう?」
真面目な顔で私を見つめるハロルドは、冗談を言っているようには見えません。
結婚? ハロルドと? ハロルドは私のことが好きだった……?
そこまで考えた時、また顔が熱くなりました。この気持ちは――
そうなのです。
私もハロルドのことが好きになってしまったようなのです。
でも……
「お気持ちは嬉しいのですが、私は『最悪な女』ですのよ? 殿方がそう噂していますわ」
「世の声など関係ありません。僕はメアリー様をずっと見ていました。僕の見てきたメアリー様は、聡明で、努力家で慈悲深い方です」
突然降ってきた褒め言葉の数々に、全身が熱くなります。
「僕のことが嫌いだとか、一緒にいたいほど好きじゃないなら引き下がります。それ以外の理由で断らないでください」
ハロルドの言葉は、なんて真っ直ぐなのでしょう。
世間体を気にしていた自分が情けないです。
「……私で良ければ喜んで。私もハロルドが好きです。あなたのことを幸せにしてみせます」
恥ずかしさを放り出して返事をすると、ハロルドは驚いたような嬉しそうな顔をしました。
「まさか承諾していただけるなんて思いませんでした。自分で言っておいて申し訳ないのですが、本当に良いのですか?」
「良いです。好きなのですから……二度も言わせないでください!」
「ははは、失礼しました。改めてよろしくお願いしますね」
こうして私は、ハロルドと結婚することになりました。
あんなに結婚はこりごりだと思っていたのに、人生は分からないものです。
結婚式は互いの親族のみのささやかなものでした。
私はまだ「ローフォード夫人」と呼ばれることに慣れませんが、きっと時が解決してくれるでしょう。
ハロルドと私は今、夫婦として領地を守りながら慎ましく生活をしています。
ノーマン様が治めていた頃よりも領民たちが真面目に働いてくれるようになったため、領地は豊かになりました。
そうそう、ノーマン様からは毎月きちんとお金と手紙が届きます。
隣国で元気に働いているようです。
彼も新しい幸せを見つけられると良いですね。
【完】
領民からも祝福されて、良い領主になりそうです。
あとはハロルドに領地の所有権を渡せば、私の役目はお終いです。
あとは寡婦として余生を楽しむことにしましょう。
あのように派手な離婚劇をした以上、再婚なんて出来ないでしょうし……。
もちろんしたい気持ちもありません。
もう結婚は恐ろしいですから。
「これで領地も安泰です。伯爵領にしては大きいかもしれませんが、ハロルドなら大丈夫ですよ」
そう言って領地の譲渡証明書を渡したのですが、ハロルドはなかなか受け取ろうとしません。
「どうしたのですか? 受け取ってくださいな。これでこの領地は正式にあなたの物ですよ」
そう言っているのに、全然受け取ってくれません。
差し出してる手が痛くなってきました。
「ハロルド?」
ハロルドは何かを決意した表情で、私の手を優しく押し返しました。
「領地はメアリー様が所有していてくれませんか? というより……僕と一緒に所有してくれませんか?」
「え? それってどういう……」
「つまり、結婚しませんか? ってことです。好きです、メアリー様。公爵よりは身分は低くなってしまいますが、公爵夫人だった頃よりも幸せにします。いかがでしょう?」
真面目な顔で私を見つめるハロルドは、冗談を言っているようには見えません。
結婚? ハロルドと? ハロルドは私のことが好きだった……?
そこまで考えた時、また顔が熱くなりました。この気持ちは――
そうなのです。
私もハロルドのことが好きになってしまったようなのです。
でも……
「お気持ちは嬉しいのですが、私は『最悪な女』ですのよ? 殿方がそう噂していますわ」
「世の声など関係ありません。僕はメアリー様をずっと見ていました。僕の見てきたメアリー様は、聡明で、努力家で慈悲深い方です」
突然降ってきた褒め言葉の数々に、全身が熱くなります。
「僕のことが嫌いだとか、一緒にいたいほど好きじゃないなら引き下がります。それ以外の理由で断らないでください」
ハロルドの言葉は、なんて真っ直ぐなのでしょう。
世間体を気にしていた自分が情けないです。
「……私で良ければ喜んで。私もハロルドが好きです。あなたのことを幸せにしてみせます」
恥ずかしさを放り出して返事をすると、ハロルドは驚いたような嬉しそうな顔をしました。
「まさか承諾していただけるなんて思いませんでした。自分で言っておいて申し訳ないのですが、本当に良いのですか?」
「良いです。好きなのですから……二度も言わせないでください!」
「ははは、失礼しました。改めてよろしくお願いしますね」
こうして私は、ハロルドと結婚することになりました。
あんなに結婚はこりごりだと思っていたのに、人生は分からないものです。
結婚式は互いの親族のみのささやかなものでした。
私はまだ「ローフォード夫人」と呼ばれることに慣れませんが、きっと時が解決してくれるでしょう。
ハロルドと私は今、夫婦として領地を守りながら慎ましく生活をしています。
ノーマン様が治めていた頃よりも領民たちが真面目に働いてくれるようになったため、領地は豊かになりました。
そうそう、ノーマン様からは毎月きちんとお金と手紙が届きます。
隣国で元気に働いているようです。
彼も新しい幸せを見つけられると良いですね。
【完】