旦那様、不倫は契約違反です。我慢の限界ですので覚悟なさいませ。
言い訳があるなら聞きましょう
「損害だなんて大げさだな! お前に迷惑をかけた訳じゃないだろう? 自由にして良いという約束じゃないか!」
不倫をしておいて迷惑をかけていないなど、随分な物言いですね。
一つ一つ説明しないといけないのでしょうか。
「本当に迷惑をかけていないとお思いですか? ……では今回のお相手であるドリーさんとは、どのように出会ったのですか? 彼女には何と言って近づきましたか?」
「それは……今は関係ないことだろう?」
旦那様の眉がピクリと動き、顔が少し引きつりました。
関係があるからお話をしているのですが、分からないなら教えて差し上げないと。
安心してください旦那様。
私は面倒見が良いと評判ですのよ。
「彼女がこのブティックのお客様だと知っていましたね? 俺と仲良くなればもっと高価な物を買ってやる、と彼女にほのめかしたでしょう?」
「そ、そうだったかな? 出会ったのは随分前だから、忘れてしまったな。はははは」
旦那様は額に汗を浮かべて首を傾げています。
まだお若いのに物忘れが激しいのでしょうか。
困りましたね……十三人の女性のことを全て覚えているでしょうか。
「彼女を含め、十三人のうち七人を同じ手口で誘ったようですね。……私の大事な顧客達を奪っておいて、本当に迷惑をかけていないと言い切れますか?」
「それはそうだが……」
「他の六人をどうやって誘ったかについても、ご説明が必要ですか? それとも一人一人について、どのくらいの期間親しかったか詳しくお話ししましょうか?」
「いや……いや、大丈夫だ」
私の親切な提案は拒否されてしまいました。
お忘れなのかと思ったのですが、どうやら思い出していただけたようです。
賠償にも関わってきますから、事実をしっかり思い出していただけて幸いです。
「それから女性とお会いする時、我が家のゲストルームをご利用なさっていましたね。本来のゲストに使用できなかったことが何度もありましてよ? 使用人たちが大変困っておりましたので、私の部屋の一室を代用しておりました」
「そうだったのか? 俺は何も知らなかったが……」
「使用人たちは旦那様へ言い辛かったのでしょう。愛人がゲストルームに入り浸るから大変迷惑している、などと。そのせいで逐一、私の耳に情報が流れてきましたの」
「あいつらっ……!」
ラングトリー家の使用人たちは優秀な方々ばかりです。
主人に恵まれなかったばかりに、多くの苦労をかけてしまいました。
本当に申し訳なく思います。
「彼らは自分たちの仕事を全うしただけですわ。怒るのは筋違いでしてよ。……さて旦那様、不倫の件について何か言い訳があれば聞きましょう」
「っ! メアリー、違うんだ! 俺はただ……確かに女達と遊んだかもしれないが、君に迷惑をかけようなんて思ったことはない! その……君には欲情しないから、代わりが必要だったんだ……。分かるだろう? 俺も男なんだ!」
妻に欲情しない夫は、家の外に愛を求める。
ありふれた不倫話ですね。そんな理由でがっかりです。
もう少し何か事情があれば考慮して差し上げようと思っていましたが、想像以上に何の理由もなかったということですね。
「あらあら、そうでしたの。側室が欲しいのでしたら、契約時にそうおっしゃってくださいな。旦那様のご両親から承諾さえいただければ、私は一向に構いませんでしたのに。あぁ、今からでもご両親に聞いてみましょうか? 跡継ぎは側室の子でも構わないか、と。……なんて、ふふっ、冗談です。もう全て手遅れですもの、無意味な話ですね。申し訳ありません」
私も貴族の端くれですから、政略結婚で相手を愛せないという事情は理解できます。
ですが、そういうことは事前にご相談いただかないと困ります。
結婚する時、初めて不倫に気づいた時、使用人が相談してきた時――
事あるごとに私は旦那様と話そうとしたのです。
お互いが上手く生活していくために。
それなのに、旦那様は話し合いを拒否してきました。
自由にする約束だ、口を挟むな等々……私と会話らしい会話なんてしたことがありませんでした。
こんなにお話するのは今日が初めてでしょう。
最初で最後の話し合いということですね。
「メアリー、待ってくれ! 話せば分かるはずだ……!」
今更何を焦っているのか分かりませんが、旦那様から出てくる言葉は無意味なものばかりです。
話せば分かる段階はとうに過ぎてしまったのですよ、旦那様。
不倫をしておいて迷惑をかけていないなど、随分な物言いですね。
一つ一つ説明しないといけないのでしょうか。
「本当に迷惑をかけていないとお思いですか? ……では今回のお相手であるドリーさんとは、どのように出会ったのですか? 彼女には何と言って近づきましたか?」
「それは……今は関係ないことだろう?」
旦那様の眉がピクリと動き、顔が少し引きつりました。
関係があるからお話をしているのですが、分からないなら教えて差し上げないと。
安心してください旦那様。
私は面倒見が良いと評判ですのよ。
「彼女がこのブティックのお客様だと知っていましたね? 俺と仲良くなればもっと高価な物を買ってやる、と彼女にほのめかしたでしょう?」
「そ、そうだったかな? 出会ったのは随分前だから、忘れてしまったな。はははは」
旦那様は額に汗を浮かべて首を傾げています。
まだお若いのに物忘れが激しいのでしょうか。
困りましたね……十三人の女性のことを全て覚えているでしょうか。
「彼女を含め、十三人のうち七人を同じ手口で誘ったようですね。……私の大事な顧客達を奪っておいて、本当に迷惑をかけていないと言い切れますか?」
「それはそうだが……」
「他の六人をどうやって誘ったかについても、ご説明が必要ですか? それとも一人一人について、どのくらいの期間親しかったか詳しくお話ししましょうか?」
「いや……いや、大丈夫だ」
私の親切な提案は拒否されてしまいました。
お忘れなのかと思ったのですが、どうやら思い出していただけたようです。
賠償にも関わってきますから、事実をしっかり思い出していただけて幸いです。
「それから女性とお会いする時、我が家のゲストルームをご利用なさっていましたね。本来のゲストに使用できなかったことが何度もありましてよ? 使用人たちが大変困っておりましたので、私の部屋の一室を代用しておりました」
「そうだったのか? 俺は何も知らなかったが……」
「使用人たちは旦那様へ言い辛かったのでしょう。愛人がゲストルームに入り浸るから大変迷惑している、などと。そのせいで逐一、私の耳に情報が流れてきましたの」
「あいつらっ……!」
ラングトリー家の使用人たちは優秀な方々ばかりです。
主人に恵まれなかったばかりに、多くの苦労をかけてしまいました。
本当に申し訳なく思います。
「彼らは自分たちの仕事を全うしただけですわ。怒るのは筋違いでしてよ。……さて旦那様、不倫の件について何か言い訳があれば聞きましょう」
「っ! メアリー、違うんだ! 俺はただ……確かに女達と遊んだかもしれないが、君に迷惑をかけようなんて思ったことはない! その……君には欲情しないから、代わりが必要だったんだ……。分かるだろう? 俺も男なんだ!」
妻に欲情しない夫は、家の外に愛を求める。
ありふれた不倫話ですね。そんな理由でがっかりです。
もう少し何か事情があれば考慮して差し上げようと思っていましたが、想像以上に何の理由もなかったということですね。
「あらあら、そうでしたの。側室が欲しいのでしたら、契約時にそうおっしゃってくださいな。旦那様のご両親から承諾さえいただければ、私は一向に構いませんでしたのに。あぁ、今からでもご両親に聞いてみましょうか? 跡継ぎは側室の子でも構わないか、と。……なんて、ふふっ、冗談です。もう全て手遅れですもの、無意味な話ですね。申し訳ありません」
私も貴族の端くれですから、政略結婚で相手を愛せないという事情は理解できます。
ですが、そういうことは事前にご相談いただかないと困ります。
結婚する時、初めて不倫に気づいた時、使用人が相談してきた時――
事あるごとに私は旦那様と話そうとしたのです。
お互いが上手く生活していくために。
それなのに、旦那様は話し合いを拒否してきました。
自由にする約束だ、口を挟むな等々……私と会話らしい会話なんてしたことがありませんでした。
こんなにお話するのは今日が初めてでしょう。
最初で最後の話し合いということですね。
「メアリー、待ってくれ! 話せば分かるはずだ……!」
今更何を焦っているのか分かりませんが、旦那様から出てくる言葉は無意味なものばかりです。
話せば分かる段階はとうに過ぎてしまったのですよ、旦那様。