旦那様、不倫は契約違反です。我慢の限界ですので覚悟なさいませ。

賠償について話しましょう

「今まで三年間、話し合いの機会はたくさんあったはずです。それを無下にしてきたのは旦那様ですよ? さて、言い訳も十分聞かせていただきましたし、そろそろ契約のお話をしましょうか。一番重要な賠償についてです。契約違反には違約金がつきものでしょう?」

「お、俺達は夫婦だろ? 夫婦間で賠償なんて馬鹿げている! 金品が横に動くだけじゃないか!」

旦那様は「賠償」という言葉に、こぶしを震わせながらお怒りになっています。
契約書に沿って話しているだけですのに、お怒りになるなんて不思議ですね。

「私達はもう夫婦では無くなりますので、心配はご無用ですわ。まずはこちらの離婚届にサインをお願いします」

離婚届の用紙を差し出すと、旦那様は鼻で笑って用紙をひらひらと揺らしました。

「離婚する気か? たかが女と遊んだだけで? お前、そんなことでは他の貴族から笑われるぞ!」

確かに一度の不倫程度で離婚することは、珍しいかもしれません。

ですが常識外れな人数に加えて、私の経営を妨害したのですから、通常の不倫問題よりもたちが悪いのです。


そのことをご理解いただけないのは仕方ありません。説明するのも面倒です。

「旦那様の心遣い、大変痛み入ります。私の心配などなさらないでくださいまし。それに、離婚は旦那様にとっても悪い話ではないでしょう? 私と別れたら結婚してやると約束している女性が四人もいるのですから。あぁ、いけない……五人でしたっけ?」

「……くそっ! サインすれば良いんだろ?」

適当に言ってみたのですが、どうやら図星だったようです。
どこもでも残念な方ですね。

でもようやくお渡しした離婚届にサインしていただきました。
これで話がスムーズに進みます。

「ありがとうございます。では、他人となった旦那様に改めて賠償を請求しますね。これが諸々の書類です」

請求書を含む書類を渡すと、一枚目に目を通した旦那様から驚きの声が漏れてきました。

「金貨千枚?!こんなの無茶苦茶だ!」

「不倫については、一人あたり金貨五十枚が相場ですので……。追加で顧客損失分を少し上乗せすると、この程度が妥当かと。知り合いの裁判官に確認しましたのよ? 安いほうだと言われましたが。それとも、もっとお支払いいただけますか? これから一人で生きていかなければなりませんので、増額は喜んで受けれいますわ」

「……」

「それから我が家の建物と土地についてですが、査定額の半分をいただきますね。ゲストルームを汚されてしまって、私は精神的苦痛で住めませんので」

「は? そこにも金がかかるのか?」

「家や土地を貰わないだけありがたいでしょう? 金貨五千枚程度です。その請求書が……二枚目の書類ですね。あぁ、私の荷物は全て移動させていますので、残った物はご自由にお使いください」


実は旦那様がこのブティックに来ている今、まさに移動させているのです。
私はもうあの家に入りたくないですから。

「あ、そうだわ。使用人達が私についていくと言って聞かないので、全員こちらで雇い直しました。一応お知らせしておきますね」

「……」

肩を震わせて俯いてしまった旦那様は、今にも書類を破り捨てそうな雰囲気です。
まあ破り捨てても無駄なんですけれど。

「これらの請求書は、正式な書類として認められています。何か異議がおありでしたら、裁判所にでも申し出てください。あぁ、でも貴族の世間体を気にする旦那様にとって、それはとても恥ずべき行為かもしれませんね。それから……」

「もう十分だろう? 勘弁してくれっ……!」

書類を握りしめてソファーから立ち上がった旦那様は、私が制止する前にブティックから出て行ってしまいました。




一番重要なことについてご説明しそびれましたが、まあ良いでしょう。
いずれ分かることですから、放っておきましょう。







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