旦那様、不倫は契約違反です。我慢の限界ですので覚悟なさいませ。
あれは結婚してすぐのことでした
さて旦那様との話し合いも無事完了しましたし、今日は少し休みましょうか。
話が通じない人との会話は、思った以上に辛いものでした。
ブティック横の自室に戻ると、ふぅっとため息が出ます。
お茶でも入れましょう。
先ほど使用人達が私物を全て移動させてくれたので、この部屋は大変心地良い部屋になっていました。
本当に優秀な人達だわ。
ラングトリー公爵家には住み込みの使用人もいましたから、彼らの新しい住まいを探さないといけませんね。
しばらくは先代公爵の屋敷に置いてもらうようにお願いしていますが、あまりご迷惑はかけられません。
先代公爵や使用人、裁判官の友人……たくさんの方々に助けられました。
特にハロルド・ローフォード男爵には、感謝の気持ちでいっぱいです。
彼がいなければ、私はまだ我慢を強いられていたことでしょう。
ハロルドと最初に会ったのは、結婚してすぐのことでした。
ラングトリー公爵夫人として旦那様の領地管理をお手伝いしようと彼の書斎を訪ねたところ、ハロルドが彼の代わりに大量の書類と向き合っていたのです。
「あ、あの旦那様は……? 貴方はどなたでしょう?」
私が尋ねると、彼は仏頂面のまま一礼をしました。
「メアリー様、おはようございます。僕はハロルド・ローフォードと申します。公爵の補佐をしております。……公爵は夜まで戻らないかと思いますが、緊急のご用件ですか?」
「いえ、お手伝いをしようと思っただけですの。いつも仕事が忙しいと仰っていましたので」
「公爵の仕事が忙しい、ですか? なるほど……では、こちらの資料整理を手伝っていただけますか?」
「分かりました」
ハロルドは旦那様の代わりに、私に仕事を与えてくれました。
その日はハロルドと二人で仕事をしながら旦那様を待っていたのですが、本当に夜まで戻ってきませんでした。
それは翌日も翌々日も同じことでした。
そこで私はようやく気がついたのです。
旦那様は全く仕事をしていないのだと。
「旦那様の仕事は、全てハロルドが代行していたのですね。申し訳ありません、何と言ったらいいか……」
私が旦那様の非礼を詫びると、ハロルドは表情を変えることなくため息をつきました。
「もう慣れてしまいましたよ。メアリー様こそ、よろしいのですか? 公爵の女遊びをいつまで野放しにしておくつもりですか?」
「あ、遊び? ……旦那様は女遊びをなさっているのですか?」
この時ハロルドから聞かされて、私は初めて旦那様が不倫していることを知ったのです。
旦那様がおっしゃった「自由にさせてもらう」という言葉の意味が、ようやく理解できた瞬間でした。
「ご存じなかったのですね、失礼しました。僕の言った言葉は忘れても良いですよ。ですが、もし詳しく知りたいのでしたら包み隠さずお話しします」
「……教えてください、お願いします」
ハロルドは終始表情を崩さず、淡々と事実を話してくれました。
そうして私は、旦那様の女遊びについて詳しく知ることが出来たのです。
ハロルド曰く、私と結婚する前から盛んに遊んでいたのだとか。
彼は元々そのような人で、結婚しても変わらなかっただけのようです。
旦那様が遊ぶ時はいつもハロルドに仕事を押しつけて行くようで、ハロルドは旦那様のことを快く思っていないようでした。
ですが立場上、断ることも出来なかったようです。
「僕の家は代々公爵家に仕えています。僕は公爵をどうすることも出来ませんでした。不倫の片棒を担ぐような真似をして申し訳ありません」
「どうか謝らないでください。ハロルドは何も悪くありません」
頭を下げるハロルドに、心底申し訳ない気持ちが湧きあがりました。
旦那様は私のみならず、周囲の人を軽視し過ぎています。
このような方が領地を治める人だなんて、あってはなりません。
だから、私は旦那様を今の地位から引きずり下ろすことを決意したのです。
「旦那様のこと、教えてくださってありがとうございます。……ハロルド、私に協力してくれませんか?」
まずは味方を増やしませんとね。
話が通じない人との会話は、思った以上に辛いものでした。
ブティック横の自室に戻ると、ふぅっとため息が出ます。
お茶でも入れましょう。
先ほど使用人達が私物を全て移動させてくれたので、この部屋は大変心地良い部屋になっていました。
本当に優秀な人達だわ。
ラングトリー公爵家には住み込みの使用人もいましたから、彼らの新しい住まいを探さないといけませんね。
しばらくは先代公爵の屋敷に置いてもらうようにお願いしていますが、あまりご迷惑はかけられません。
先代公爵や使用人、裁判官の友人……たくさんの方々に助けられました。
特にハロルド・ローフォード男爵には、感謝の気持ちでいっぱいです。
彼がいなければ、私はまだ我慢を強いられていたことでしょう。
ハロルドと最初に会ったのは、結婚してすぐのことでした。
ラングトリー公爵夫人として旦那様の領地管理をお手伝いしようと彼の書斎を訪ねたところ、ハロルドが彼の代わりに大量の書類と向き合っていたのです。
「あ、あの旦那様は……? 貴方はどなたでしょう?」
私が尋ねると、彼は仏頂面のまま一礼をしました。
「メアリー様、おはようございます。僕はハロルド・ローフォードと申します。公爵の補佐をしております。……公爵は夜まで戻らないかと思いますが、緊急のご用件ですか?」
「いえ、お手伝いをしようと思っただけですの。いつも仕事が忙しいと仰っていましたので」
「公爵の仕事が忙しい、ですか? なるほど……では、こちらの資料整理を手伝っていただけますか?」
「分かりました」
ハロルドは旦那様の代わりに、私に仕事を与えてくれました。
その日はハロルドと二人で仕事をしながら旦那様を待っていたのですが、本当に夜まで戻ってきませんでした。
それは翌日も翌々日も同じことでした。
そこで私はようやく気がついたのです。
旦那様は全く仕事をしていないのだと。
「旦那様の仕事は、全てハロルドが代行していたのですね。申し訳ありません、何と言ったらいいか……」
私が旦那様の非礼を詫びると、ハロルドは表情を変えることなくため息をつきました。
「もう慣れてしまいましたよ。メアリー様こそ、よろしいのですか? 公爵の女遊びをいつまで野放しにしておくつもりですか?」
「あ、遊び? ……旦那様は女遊びをなさっているのですか?」
この時ハロルドから聞かされて、私は初めて旦那様が不倫していることを知ったのです。
旦那様がおっしゃった「自由にさせてもらう」という言葉の意味が、ようやく理解できた瞬間でした。
「ご存じなかったのですね、失礼しました。僕の言った言葉は忘れても良いですよ。ですが、もし詳しく知りたいのでしたら包み隠さずお話しします」
「……教えてください、お願いします」
ハロルドは終始表情を崩さず、淡々と事実を話してくれました。
そうして私は、旦那様の女遊びについて詳しく知ることが出来たのです。
ハロルド曰く、私と結婚する前から盛んに遊んでいたのだとか。
彼は元々そのような人で、結婚しても変わらなかっただけのようです。
旦那様が遊ぶ時はいつもハロルドに仕事を押しつけて行くようで、ハロルドは旦那様のことを快く思っていないようでした。
ですが立場上、断ることも出来なかったようです。
「僕の家は代々公爵家に仕えています。僕は公爵をどうすることも出来ませんでした。不倫の片棒を担ぐような真似をして申し訳ありません」
「どうか謝らないでください。ハロルドは何も悪くありません」
頭を下げるハロルドに、心底申し訳ない気持ちが湧きあがりました。
旦那様は私のみならず、周囲の人を軽視し過ぎています。
このような方が領地を治める人だなんて、あってはなりません。
だから、私は旦那様を今の地位から引きずり下ろすことを決意したのです。
「旦那様のこと、教えてくださってありがとうございます。……ハロルド、私に協力してくれませんか?」
まずは味方を増やしませんとね。