彼の溺愛の波に乗せられて
俺は距離をとって海に出た。

すると少しすると、彼女がいつの間にか近くに来ていてバチっと目が合うと話しかけてきたではないか。

「あの、先日は牽引してもらってありがとうございました」

「誰?」

俺は咄嗟にそんな事を言ってしまう。
バッチリ覚えてるのに。

「覚えてないならいーや。まずお礼だけ言いたかったんで。じゃ」

彼女はそれだけ言って踵を返すように去ろうとした。

「嘘。覚えてるよ」

何故か引き止めてしまった。

「は?」

彼女はまた振り向く。
やっぱり可愛い。
すっぴんでこれって、化粧したらどうなんの?

「君、地元の人? 上手いよな」

滅多にこんな風にサーフィン中に話すことなんてないのに俺の口は止まらない。

「どーも」

可愛いけど愛想わる。
懐かない猫みたいだ。

「飯でもいく?」

「行かない」

彼女はそう言って行ってしまった。

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