シンデレラのないしょ話 ~悪役令嬢だって恋をする~
 名無しの人達のこんな本音を聞いたのは初めてで、私はおどろいてしまった。

 むしろ名無しでいる方が気楽で気ままで、のんびりくらせるだろうくらいに考えていたのだ。
 今の家に来る前、質素(しっそ)なアパルトマンの一室でお母さんとくらしていたころの私みたいに。

 でも、考えてみればあのころの私は子供で、元々何も考える必要がなかった。

 もし私が名無しのままでくらしていて、自分の人生を考える年頃になったら、どんな風に感じるのだろう? 私は自分の立場のつらさばかりにかまけて、他の人達の立場でものを考えたことが無かったことが恥ずかしくなった。

「おい」

 声をかけられふりむくと、私にブスと言った男が神妙な面持ちでそばに来ていた。
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