シンデレラのないしょ話 ~悪役令嬢だって恋をする~
……この世界が“そういう決まり”になっていると知ったのは、いつだっただろう。
小さいころの私は母と二人きりで暮らしていた。
特に貧しくはなかったけれど、ぜいたくな暮らしをしていたわけでもない。
ごく普通の生活だった。
下町のアパルトマンにあった私達の住まいは、一般的な人々が住む一般的な住居で、ごうかな食事も、きらびやかなドレスも、高価な暖かい羽根布団もなかったけど、お金持ちの生活を知らなかった私はそれで満足だった。
ちゃんと毎日食べられる食事、おしゃれではないけど暑さ寒さをしのげる衣服。
冬の寒い夜は、暖をとるため母と同じベッドで眠ったものだが、私はお母さんと一緒に寝るのがうれしかったので、毎年冬が来るのが待ち遠しかった。
私達はごく普通の母子だった。父親は私が物心つく前に亡くなったそうだ。
でも私は父の顔さえ覚えていないので、特にどうということもなかった。
お母さんは「ジャボット」「ジャボット」とよく私の名前を呼んだ。
そして「あなたは私の自慢の娘。”名有り”の子」と言った。
「じゃあ、お母さんの名前はなあに?」
「お母さんは名前がないの。あえて言うなら”ママハハ”かしら」
「ふーん、変な名前」
「……ふふ、そうね」
小さいころの私は母と二人きりで暮らしていた。
特に貧しくはなかったけれど、ぜいたくな暮らしをしていたわけでもない。
ごく普通の生活だった。
下町のアパルトマンにあった私達の住まいは、一般的な人々が住む一般的な住居で、ごうかな食事も、きらびやかなドレスも、高価な暖かい羽根布団もなかったけど、お金持ちの生活を知らなかった私はそれで満足だった。
ちゃんと毎日食べられる食事、おしゃれではないけど暑さ寒さをしのげる衣服。
冬の寒い夜は、暖をとるため母と同じベッドで眠ったものだが、私はお母さんと一緒に寝るのがうれしかったので、毎年冬が来るのが待ち遠しかった。
私達はごく普通の母子だった。父親は私が物心つく前に亡くなったそうだ。
でも私は父の顔さえ覚えていないので、特にどうということもなかった。
お母さんは「ジャボット」「ジャボット」とよく私の名前を呼んだ。
そして「あなたは私の自慢の娘。”名有り”の子」と言った。
「じゃあ、お母さんの名前はなあに?」
「お母さんは名前がないの。あえて言うなら”ママハハ”かしら」
「ふーん、変な名前」
「……ふふ、そうね」