シンデレラのないしょ話 ~悪役令嬢だって恋をする~
 一年くらい前は中央アジアの騎馬民族(きばみんぞく)にあこがれるあまり、自分で羊をつぶそうとして、お母さんから泣いて止められていたっけ。
 
「おねがい!読者の子供たちにシンデレラが血まみれになって動物を(ころ)す姿を見せないで!」って。

 仕方なく羊を肉屋で調達(ちょうたつ)した後で、シンデレラは私に言った。
「たしかに童話のヒロインが食肉の為に動物をシメる場面を見せるのは、行き過ぎだったかも知れないわ」
 
「行き過ぎというか、前代未聞(ぜんだいみもん)だと思う」
 
「でもね、いつも食べている食事の中の肉や魚だって結局は誰かが命をうばっているわけでしょ。そういう、食物連鎖(しょくもつれんさ)だっけ? そうやって誰もがお腹を満たしているっていう事実は子供達だっていつかは知らなきゃいけないと思うの」
 
「それは『童話シンデレラ』の役目ではないんじゃないかしら……」

 ちなみにシンデレラにつぶされそうになって生き延びた羊は、羊毛を採取(さいしゅ)するべく我が家の庭で飼われている。
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