【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。
「貴族が、自分で?」
「ああ。びっくりだろう?」

 料理を作るのはシェフの仕事だ。だから、厨房はシェフの楽園といってもいい。……でも、相当つらかったんでしょうね、自らの手で料理を、なんて。

「あの、フィリベルトさまは、大丈夫でしたか?」

 不安になって(たず)ねてみると、彼はぱちくりと目を(またた)いて、すぐに質問の意図を理解し、こくりとうなずいた。

「とても美味しかったよ」
「それは、良かったです」

 ホッとしたように笑みを浮かべると、彼もにこにこと笑っている。(なご)やかな雰囲気を楽しみながら、食事を進めて、最後にデザートが出てくる。

 イチゴのケーキだった。ホイップクリームにもイチゴを使っているのか、ほんのりとしたピンク色で見た目がとにかく可愛い。……もしかしたら、デザートもエステルさまの趣味に寄せられて作られているのかも。

 早速いただことうとフォークを持とうとしたら、フィリベルトさまにフォークを取られた。え? と思っているうちに、ケーキを一口サイズに切り分け、こちらに向けてくる。

 こ、この状態で食べろということ……!?

 で、でも恋人なら……もっといえば婚約者なら、こういうことをしても……いいのよね?

 たぶん、今、私の顔真っ赤に染まっているわ……と思いながら口を開けてケーキを口にした。

 ふんわりとしたスポンジに、甘酸っぱいクリーム。甘さ控えめでいくらでも食べられそうと本気で思った。
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