【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

スターリング領 2話

 朝市は、とても人が多かった。

 こんなに人が多いとは……と一瞬唖然としてしまったが、フィリベルトさまがきゅっと手を強く握った。思わず彼を見ると、「はぐれないように」と微笑む。

 その瞳に確かな甘さを感じて、頬が熱くなってしまう。きっと、真っ赤に染まっているわ、私の顔。

「ずいぶんと、海のものもあるのですね」
「竜が運んでくれるので」

 ……なるほど、海路でも陸路でもなく、空路で運ばれてくるのね。

「竜は国中、どこにでもいるのですか?」
「そうなるのかな。人に協力してくれる、人懐っこい竜も多いよ」

 さすが竜の国ユミルトゥス。

 実際に竜を見ると、いろいろなことを思っちゃうわよね。ユミルトゥスの発展に、竜の存在はとても重要だと思うから。

「わ、これは……ホタテ!?」

 ジュウジュウと音を立てて焼かれていたのは、チェルシーが嬉々として発した言葉通り、ホタテだった。

 バター醤油のいい匂い。……さすが日本の乙女ゲーム、調味料も日本で使われていたものが多いわね。

「いらっしゃい、おいしいホタテ焼き、どうだいっ!」
「お嬢さまっ」
「いいわ、みんなで食べましょう」
「やった! じゃあえーっと六個お願いします!」

 チェルシーはキラキラと笑顔を輝かせて、店主に注文する。食べる場所があるのかしら……と辺りを見渡すと、フィリベルトさまと視線が合った。

「デリック、席の確保を」
「か、かしこまりました!」
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